題詠100首選歌集(その64)

選歌集・その64


019:ノート(228〜252)
今泉洋子)海の歌仕上がらぬまま窓際の作歌ノートに秋の陽は射す
(内田かおり) 本棚に黄ばむノートの切なくて窓を開いて風を吸い込む
020:貧(227〜251)
(近藤かすみ)なんとなく身体のだるい朝のこと貧血といふ言葉に縋る
(泉)つぎつぎとものあたふるにためらへば「貧乏」の意味子は尋ね来る
037:藤(177〜203)
(葉月きらら)藤色の浴衣が似合う歳になりすっかり妥協を覚えた私
045:幕(153〜177)
(桑原憂太郎) 文化祭のステージ発表の幕間に我の真似する生徒もをりぬ
(ちょろ玉)準備した話題はすでに出尽くして幕が開くのを頼りにしてた
053:妊娠(129〜155)
(bubbles-goto)妊娠や堕胎のうわさ脱ぎ捨てて波打ち際を駆けるグラビア
068:秋刀魚(101〜125)
(こゆり) 待つ人があるふりをして買う秋刀魚そろそろ夜が寒くなります
(美木) 初物の秋刀魚の横でこないだの浮気を大根おろしが責める
069:隅(101〜125)
(ほたる) トーストの隅までジャムを塗る朝は内輪話をいつまでも聞く
(磯野カヅオ)吹き抜ける風の行方を追ふごとくプールの隅を蜻蛉の行く
076:住(76〜100)
(みなと)眠れずにネット世界の住人となりてうつろの夜の蝉たちよ
(青野ことり)夏が来るまえに移ったかりそめの住まいの庭にも秋の虫鳴く
石畑由紀子)君の住む街の天気を先にみる癖がつきました お元気ですか
(珠弾)住み慣れた街の灯が「お帰り」と言ってるような旅の終着
077:屑(77〜101)
(nnote)かたぐるま星屑ひとつふくませて父しか知らぬ神話を聞く夜
(五十嵐きよみ)ときどきは子供っぽさを覗かせるパン屑ひざの上にこぼして
(こすぎ)こぼれてる虹の屑まで拾いあげ 泣いてばかりの君に贈ろう
092:夕焼け(51〜75)
(nnote)謝ってしまいたかった夕焼けに缶コーヒーは冷えてゆくだけ