題詠100首選歌集(その65)

 10月に入った。題詠100首もあと2ヶ月だ。これからどの程度の作品が集まるのか、ここ数年より締切りが1月延びたので予測できないが、佳作がたくさん集まるのを楽しみにしている。
 秋も次第に本格化して来た。長袖のスポーツシャツに着替えてちょうど良い感じだ。


          選歌集・その65


012:達(262〜286)
(近藤かすみ)達筆の男はうまく使はれて出世が遅いと父言ひたりき
(Makoto.M) 秋の陽は君の背(そびら)に達したり電子音ふと匂い来るころ...
(里坂季夜) とびあがるほどに素敵なお知らせはいつも遅れて配達される
013:カタカナ(254〜278)
(遠藤しなもん) 突然に告白されたあの日から会話が全部カタカナみたい
(ちょろ玉) カタカナで「センパイ」なんて呼ばれてた時代に少し好きだった人
(月原真幸) カタカナで名前を書いてそれっきりどこの誰でもないふりをする
(田中彼方)窓ガラスつたって落ちる雨だれが、ふとカタカナの形を作る。
(稚春)カタカナで音符にルビを振りながら爪先立ちの恋に疲れる
今泉洋子)逝く夏を惜しむがごとく蜩はカナカナカナとカタカナで啼く
(春畑 茜) カタカナに綴れば風のゆふぐれをゆくにも似たりハルハタアカネ
(泉)カタカナでカナシと書けば乾きゆくこころに薄きかさぶたのごと
(佐山みはる) カタカナに書けばたちまち変質すことばのいくつありてこの夜
(内田かおり) 踏み出した思いの隙間カタカナは気後れだけを伝えたろうか
026:コンビニ(204〜228)
(kei)ライト浴び並ぶコンビニ弁当の最初で最後となる晴れ舞台
(椎名時慈) (待ち合わせ場所のコンビニ今はなく捨てられた猫廃屋に棲む
(ちょろ玉) 「愛はコンビニでも買える」という歌詞を信じてみたいと思う真夜中
今泉洋子) コンビニにおでんと花火並べられわづかに軋む体内時計
(文月育葉) コンビニで立ち読みしてる人達の背中がすすり泣く午前2時
038:→(177〜201)
(紫月雲) (結局は同じことなのかもしれない→が分かつ二つの道も
(斗南まこと)→(やじるし)の順路を辿る平日の水族館の蒼い静寂
044:わさび(152〜176)
(ちょろ玉) つんときた理由はわさび入りだから 隣に君がいなかったから
(近藤かすみ)ギヤマンのつゆの器のうちがはをつうと落ちゆくわさび さみどり
046:常識(151〜177)
(一夜) 門限を過ぎて連絡来ぬ子等の 常識の無さ蹴飛ばす夜更け
(ワンコ山田) 宿題が有るわけじゃない八月の常識として空を見上げる
(斗南まこと) 常識をかざす虚しさ手を繋ぎ十六夜の月仰いだ真冬
(小林ちい)常識や理性をまとめてゴミにして朝の6時に会いに行きます
(近藤かすみ) 常識の二つ手前は正直で 新明解の表紙くれなゐ
057:縁(127〜152)
(ワンコ山田) セミヌード気分 初めて縁なしの眼鏡で君に逢う頬熱く
(ちょろ玉)3年間同じクラスで1回も話してないって縁だと思う
078:アンコール(76〜102)
(nnote) アンコール飽和のさきの瑪瑙いろ夏の終わりを惜しみつつ聴く
(五十嵐きよみ)この夏の思い出ひとつアンコールするなら虹を見た雨上がり
(青野ことり) アンコールに応えたあとも聴衆の拍手はやまずゆったりうねる
(ほたる) アンコールアワーで流すドラマより再生したい過去のいくつか
079:恥(76〜100)
(藤野唯)恥ずかしいだけの思い出もあなたなら話してみよう 梅酒ください
(佐藤羽美)その時の気恥ずかしさの手触りを確かめながら無花果を食む
(五十嵐きよみ) うっかりと水着の跡をつけたまま背あきのドレスを着る恥ずかしさ
(青野ことり)俯いたうなじ おくれ毛 耳たぶがまっ赤に透けて恥らっている
石畑由紀子) 太宰ほど誇れる恥のない午後の舌先でころがすユスラウメ
099:戻(51〜76)
(西野明日香) ざっくりと拾い集めた心情を閉じてまた母に戻る夕暮れ
(新田瑛) 飲み干したままのグラスをテーブルに戻す間もなく過ぎ去った恋
(原田 町)仕事罷め戻っておいでは禁句にて息子の愚痴をただ聞いている