題詠100首選歌集(その66)

          選歌集・その66


007:ランチ(287〜311)
(稚春)「ブランチ」と呼んで朝寝を正当化している内に婚期を逃す
今泉洋子) 合宿に子を送り出し母親のスイッチ切りてランチ予約す
(小林ちい) ごめんねが言えないランチタイムにはチキンライスに白旗立てる
(絢森) ひとりでも沈まぬこころを詰めゆきてそれでも苦きランチボックス
(内田かおり) 混雑はデパ地下だから取り敢えずランチボックス手にする真昼
(里坂季夜)500円ランチセットのミニプリンほどの甘さのリップサービス
014:煮(253〜280)
(月原真幸)煮詰まったキャベツスープの鍋底をさらう どこにも行けない4月
(近藤かすみ) 煮魚の眼(まなこ)しろきを恐れたる子は晩ごはん終へただらうか
(佐山みはる) 「まだ煮えない」ふいに声せり大楠のしたに車の窓ひらくとき
(勺 禰子)えび芋の煮っころがしのお品書き 好きで残業してるんじゃない
015:型(255〜279)
(月原真幸) B型の人間だから「変人」は褒め言葉だと受け取っている
(近藤かすみ)定型に嵌めてはまらぬ恋ごころ土塀のうへを黒猫あゆむ
(佐山みはる)大型のクレーン静かにならびをりオレンジの灯のともる埠頭に
035:ロンドン(177〜201)
(斗南まこと) 事務的に君のメールを消していくロンドン橋は落ちてしまった
(小林ちい)落ちるもの:中2の成績、ロンドン橋、雷、ほっぺた、あなたとの恋!
(末松さくや)ロンドンに猫はいますかこちらではいないことにも慣れてきました
058:魔法(126〜152)
(穂ノ木芽央) 魔法瓶の麦茶は冷たすぎて外ばかり見てゐる雨の教室
(ezmi) 笑ってもいいよひとりで眠る夜は魔法使いの夢をまだ見る
(一夜)優しさの魔法が上手い彼の罠 騙され無いと騙されてみる
059:済(126〜151)
(斗南まこと) あのひとの修正済みの思い出にわたしはいない ススキが、揺れる
060:引退(126〜150)
(美木)今シーズン限りで引退決意したベテラン投手も年下の秋
071:痩(101〜125)
(月下燕) ひとりでにこわれるガラス 妹の痩せた手首に包帯を巻く
(美木) 「痩せたね」と気軽に友に言うことができなくなったと還暦の母
080:午後(76〜105)
(nnote)午前から午後のあわいを越えてゆくしゃぼん玉へとたくす虹いろ
(萱野芙蓉) 翅を得たものが飛び去り脱け殻は午後のひかりに透けゆくばかり
(青野ことり)空の青がゆらめいている湯に浸かり夢みるように午後をたゆたう
(月下燕) 国境の長いトンネルくぐり抜けあなたと過ごす何もない午後
(斗南まこと)やさしさを使い果たした午後に飲む紅茶は自分にあまーくいれる
082:源(76〜100)
(流水) 電源を消してたたみし携帯は閉ざした貝のやうに黙して
(萱野芙蓉) 現代語訳ではもはやなくなつた与謝野源氏にさすビルの影
石畑由紀子) 電源を切ったつめたい指先が私の花をふるわせて、夜