期待と不安(スペース・マガジン10月号)

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。


    [愚想管見]  期待と不安             西中眞二郎


 鳩山内閣がいよいよスタートした。ベストの布陣かどうかは別として、まずまず期待できそうな顔触れではある。久々の本格的政権交替だし、新鮮さを感じるのは当然のことかも知れない。
 しかし、言うまでもなく問題はこれからだ。当面の景気浮揚策をはじめ、新内閣を取り巻く課題は余りにも多く、かつ、重い。これまでの自公政権とは大きく違うスタンスで課題に取り組もうとしているだけに、大きな期待を抱いている人も、逆に大きな不安を抱いている人も多いだろうと思うが、私自身が最も評価しているのは、小泉政権に続く路線からの明確な転換である。
 
 一つは、憲法と安全保障の問題である。少なくとも、この政権で憲法改正が取り上げられることはないだろう。また、安全保障を中心とする日米問題についても、これまでとは異なるスタンスで取り組んで行くことが期待できる。もっとも、後者は相手のある話であり、国民の意見も大きく分かれるところだろう。それだけに、過大な期待は避けるべきだと思うが、少なくとも、これまでとは違うスタンスで対米関係に臨み、異なる論点から議論を尽くすことは、長い目で見た両国の関係にとってもプラスになるものだと思っている。

 
 他方、民主党マニフェストには、定見のないバラマキと思われるものもある。例えば「高速道路無料化」は、環境対策、経済効率、多数の国民の利便性などの総合的な交通体系から見れば、「百害あって一利なし」だと思う。また、「既存の組織を通さない直接給付」という考え方も、基本的には正しい方向だとは思うが、効率性の面では問題があるかも知れないし、「子ども手当」の場合を見れば、直接給付では、それがこどものために使われる保証はない。むしろ、例えば授業料や給食費の補助といった形で学校に渡す方が、その成果は確実なものになるのではないか。また、保育施設の待機幼児をなくすことの方が、より緊急の課題なのではないか。
 より基本的には、財源の問題である。無駄の排除が必要なことは当然だが、不足財源がそれでカバーできるとは到底思えず、財源問題に正面切って取り組むべきだと思う。なお、税制面では、配偶者扶養控除の廃止を掲げているようだが、税制面でまずやるべきことは、所得税累進課税の強化であり、株式収入の課税の正常化であり、相続税基礎控除の引下げだと思う。「持てる者」からの課税強化がなぜマニフェストに掲げられなかったのか、大いに疑問を感じている。

 
 世論調査によれば、「民主党を支持する」としながらも、「マニフェストには異論がある」という回答が随分多かったようだ。マニフェストの見直しを行うことは、政権を担う者として当然の責務だとすら私は思っている。その中身にもよるが、十分な説明責任さえ果たせば、「公約違反」という批判よりも、そのフランクさを評価する向きが多いということもあり得るのではないか。

 
 吉田内閣から鳩山内閣に変わったのが昭和29年、それから55年ぶりに、その孫たちによって政権の交替が行われたわけだ。当時の吉田内閣は自由党鳩山内閣民主党だったわけだから、党の名称にもいささかの因縁を感じる。その後間もなく両党は合併して「自由民主党」となった。まさか今後その轍を踏むことにはならないでしょうね・・・。(スペース・マガジン10月号所収)