題詠100首選歌集(その70)

           選歌集・その70


005:調(315〜340)
(春畑 茜) はつ秋のこころは指を伸べながら香味料調味料を選べり
(小林ちい)頑張れば明日も土曜も会えるけどもうスケジュールは調整しない
今泉洋子) 締め切りに追はれることの多すぎてかなかな哀し蜩の調べ
(近藤かすみ) 明日(みやうにち)の用意調へやすらけくアラビアの香を枕辺に焚く
(内田かおり)  ピアノよりこぼれ落ちたる沈黙に微かな調べありて取り巻く
(里坂季夜)ト短調からハ短調いつからか胸の底には春の水音
(moco)寝過ごしてみた日曜は雨粒の奏でる調べに揺らされている
(志野里子)短調長調になる ドアの向こう あなたの肩の彼方に青空
(久野はすみ) 大胆な転調ののちゆるやかに終わってしまうのか 曼珠沙華
009:ふわふわ(279〜303)
(小林ちい) 今週はずっとふわふわしています。明日一番に会いにいきます。
(春畑 茜) ふわふわと日にその影の揺れながら中庭を烏揚羽がゆけり
(内田かおり)流れゆくこともいつしか諦めて木屑のようにふわふわ浮かぶ
(Makoto.M)ふさふわと君はみどりに着替えゆく私と冬の窓のあいだで
049:ソムリエ(153〜177)
(TIARA)熟れ過ぎた私をテイストして欲しい ソムリエよりも優しくそっと
(小林ちい) ソムリエのような顔してワイン注ぐあなたにすでに酔わされている
(惠無) ソムリエも青いチーズも無縁だしワインはただの調味料だし
今泉洋子) 伝統の味を受け継ぎ伝へゆく田舎料理のソムリエわれは
(内田かおり)ソムリエの黒いエプロンきっちりと巻かれてワイングラスに揺れる
064:宮(126〜150)
(ワンコ山田)女って自覚は染色体レベル子宮はなにもかんがえてない
(ezmi)いまもまだ会える気がして終点を確かめている宇都宮線
(湯山昌樹) ある子には迷宮入りに似たるらし 「方程式」と言葉は流行(はや)れど
074:肩(102〜126)
(しおり) 幼子と繋ぐ貴方の左手は夕べわたしの肩を抱いてた
(遥遥)肩ひもがずれてくるのをかきあげるしぐさのままで世界が止まる
(岡本雅哉) 風の日はひとのすきまをさがしつつ肩をすくめてとがらせている
(暮夜 宴) 肩越しの恋人きみをそう呼べば愛と見紛う真昼の情事
076:住(101〜125)
(斗南まこと)新しい住所のメモを握りしめ君への手紙書き出した朝
(磯野カヅオ) 田舎道行き着く果てに住み移る帰途に抱ふるガーベラの鉢
(こゆり)今日もまた悲しい夕日が沈みます君と誰かが住むこの街に
(ちょろ玉) この街のどこかに君が住んでいる 遠くにピアノの音が聞こえる
(美木)ひやかしで住宅展示場に行き架空の家族の部屋割り悩む
(水風抱月) たゆみ無く筆奔らせる情動の我が背(せな)に住む 飼い殺されて
077:屑(102〜126)
(にいざき なん)何一つ誇れぬ僕の自室には星屑いれるゴミ箱がある
(花夢)(夢見がちなふりをするだけ)紙屑のなかに白紙の婚姻届け
(斗南まこと)屑籠に丸めて捨てた置き手紙 虹を探しに出かけてきます
079:恥(101〜125)
(emi)木洩れ日の射す紫は恥じらいの少女思わす小さな形で
(村上はじめ)恥じらいが美徳に思えた二十代怖いものなど何もなかった
(暮夜宴)晴れた日は恥部を諸々さらけ出し空の青さに染め上げておく
087:気分(76〜100)
(斗南まこと) もうそんな気分じゃないの携帯の着信拒否が一件増える
(かりやす) 気分屋で入退会を繰り返すわれにあまたのアカウントあり
(ほたる)青い鳥を手の中に飼うささやかな祈りのような気分の朝は
089:テスト(76〜100)
(五十嵐きよみ) 空白はなんだか苦手「あ」と書いたテストメールを送受信する
(こゆり)ねえ先生 テストに出ないことばかり大事にしたいような空だね