題詠100首選歌集(その75)

 最終題もやっと100首に達して、これから5巡目に入る。あと1月弱、これからどんなペースで作品が増えて行くのか、楽しみであると同時に、少し怖いような気がしないでもない。


      選歌集・その75

053:妊娠(155〜179)
(TIARA)妊娠の二文字抱いて柔らかな横顔がそっと母へと変わる
(やすまる) 夫のいないぬるい朝にはしたはらの白い妊娠線を押さえる
(内田かおり)目を伏せて胎を庇いつ妊娠を報せし女の肩の寂しき
(星桔梗)妊娠を告げる不安と喜びが交錯してる初めての春
(鯨井五香)妊娠をうたがう夜にみぞおちをなぞる蛍光ペンのいらいら
057:縁(153〜177) 
(一夜)見上げれば澄んだ青空広がりて 縁切り寺の境内静む
(sora)再びの秋巡り来て逆縁の悲しみ更に深くしてゆく
(笹本奈緒) おぼろげなオーラを補完するように私の影は黒い縁取り
(村本希理子) 縁日のざわめき遠き路地に来てひかり放たぬ硬貨取り出す
(今泉洋子)獄窓を額縁として郷さんの見る空の絵に秋はいたるか
(内田かおり) 縁あれば関わり深くなるはずと思う握手に木漏れ陽の散る
059:済(152〜176)
(TIARA)「予約済み」の印みたいに胸元でアイツと揃いのチャームが揺れる
(近藤かすみ)いまいちどレンジにコロッケ温めてひとりで済ます夕餉は八時
(村本希理子) 足首に秋は深まる 連絡の済んだ人から線引きをれば
(内田かおり) 心砕く仕事のひとつ済ませ居り燃ゆる紅葉はひと日で散りて
073:マスク(126〜150)
(ワンコ山田)雑踏とマスクと電話越しの声騒ぎ始める血が邪魔をする
(駒沢直)一年中マスクをつけて歩いても不自然でないことのおかしさ
086:符(102〜126)
(本田鈴雨) ひと恋へばあらゆることが符号にて 回転扉はひとりで入る
(空山くも太郎)終止符はわざと落とした だからもう一緒に居てもいいと思ってた
(sora)秋されば娘に会いたくて片道の新幹線の切符を求める
087:気分(101〜125)
(蓮野 唯) 飛び跳ねる音符のように気分屋の猫の尻尾に萌え狂う日々
(都季)どうしても悲しい気分になりたくて体育座りで夜を待ってる
089:テスト(101〜125)
(美木) 今はまだテスト期間ということで今日の食事はワリカンにして
(村木美月)神様のテストはいつもいじわるで答えはひとつとは限らない
(桑原憂太郎) ナイターを英語科備品のラジカセで聴きつつテストの採点をする
(はづき生)まひるまの期末テストの帰りみち焼き芋屋台の横とほりすぐ
(暮夜 宴)11月、冷たい雨の降る夜のテストパターンみたいな孤独
098:電気(78〜102)
(酒井景二朗)樣々な電氣仕掛けの部屋の中芋をかじつてゐるだけの僕
(春待)真っ暗が心地よい日もあるだろう今日は8時に電気を消そう
099:戻(77〜101)
(酒井景二朗)世の中を憂ふふりから自室へと戻つてはまるヴァーチュアルゲーム
(蓮野 唯)電気屋に「入るだけ」だと言い置いて戻らぬ夫待つティータイム
(春待)まだ君と共に旅立つ勇気無く払い戻した青い乗車券
(わだたかし)あの頃の街に戻ってしっかりと目に焼き付けておきたい景色
100:好(76〜100)
(振戸りく) 君がいう好きを聞き取りやすいよう髪をまとめて逢いに行きます
(蓮野 唯)戻りあう好意互いに受け止めて今は一児の親をする仲
(だや) 好きなものをみんな並べて一つづつあなたに見せていく砂の粒