題詠100首選歌集(その78)

        選歌集・その78


018:格差(263〜287)
(佐山みはる) おみやげに格差みえつつ免税のレジにつぎつぎ人はたちをり
(内田かおり)子犬にも格差あるらしペットショップの表示に赤き割引の文字
(里坂季夜)ふしあわせ好きの彼女のしあわせは女性セブンの格差特集
025:氷(226〜251)
(フワコ)秋まつりの夜は思ったより冷えてなかなか減らぬ子のかき氷
(寺田ゆたか) 甘くないかき氷少し欲しといふ ただ一口の楽しみなるに
(青山みのり) 薄氷をかさねるごとに澄んでゆく夕餉をかこむ母と子の距離
026:コンビニ(229〜253)
(佐山みはる) レジ前にありてちひさしコンビニのポストにけふは歌稿を投ず
(冬鳥) 午前2時 一億人の夜のふちに腰掛けるためコンビニへゆく
(寺田ゆたか)コンビニでやつと見つけたかき氷やはり甘いと病む妻はいふ
035:ロンドン(202〜226)
(長月ミカ) 待っているロンドン仕込みのミルクティー消えゆく湯気に窓の外見る
(鯨井五香)片道でロンドンへ発つ秋晴れのそのジャケットはあなたに似合う
(佐山みはる) しあはせを売つてる店を探しをりロンドン・アイの窓に寄りゐて
(寺田ゆたか)暗い歴史思ふだけでも辛いよとロンドン塔に妻は入らず
063:ゆらり(156〜180)
(TIARA)ふいをつく笑顔できつく綴じられたはずの想いがゆらりほどける
(村本希理子)人影のゆらり傾ぎぬストリートビューの写せるわが家の前の
(空山くも太郎) 明け方のゆらりとしている時間帯 ただの二人になって抱き合う
(鯨井五香)はじまりの寝息かすかにお隣のあたまはゆらり重たくなりぬ
078:アンコール(130〜154)
(紫月雲)アンコールの残響のなか手を握る取り残された子どものように
(村本希理子)アンコールには応へえず 老指揮者ふかく頭(ず)を下げ舞台を去りぬ
080:午後(131〜156)
(はづき生)みちたりた午後といふものあるらしくためしにけふは仕事してみる
(紫月雲) 秋深し鏡に顔を写す間もなくてやさしい午後の陰影
(近藤かすみ)愛しきやし紅葉(もみぢ)してゆくハナミズキ午後の日差しのみぢかさゆゑに
今泉洋子)妄想が膨らみてゆく夏の午後 青銅の指しづかなりけり
(一夜)吾子帰る予定の午後を見送って 夕闇迫る鋪道眺むる
(bubbles-goto) 「半ドン」という語久しく耳にせず土曜の午後の薄れゆく空
(村本希理子) レプリカの胸像並ぶギャラリーに深く伸びをり午後の日差しは
(寺田ゆたか) 独り居の部屋に射し入る秋の陽を諸手に受けて黙しゐる午後
082:源(126〜150)
(はづき生)浮子ややも食ひあがりをり水底に源五郎鮒いぶかりをらむ
(岡本雅哉) つかのまの青春まるごと眠らせて電源ボタンの青い点滅
今泉洋子)平安の感を表す源氏庭目前(まさか)に眺め風のこゑ聴く
(村本希理子) 「スリープ」が基本動作のパソコンの電源切りてわたしがねむる
093:鼻(104〜129)
(桑原憂太郎) シラカバの花粉の舞ひし学舎で生徒の嘘を鼻が感じる
(sora) こつそりと想像してみる人人のマスクの下の鼻と口びる
094:彼方(103〜128)
(空山くも太郎)夕焼けの彼方にいますか もう夜は訪れましたか 電話ください
(しおり)願い込め折った千羽の鶴連ね今夜彼方の君に飛ばそう
(ほたる) 彼方より空耳がしてスキップで渡る横断歩道の鍵盤