題詠100首選歌集(その80)

 この催しも後10日余り、最終題の第100も125首に届いた。いよいよ大詰めだ。


          選歌集・その80


038:→(202〜226)
(葉月きらら)→(ベクトル)はいつも一方通行で行き来できない矢印のまま
(佐山みはる)→のとおりに展示みてゆけば青焼け空をひとは飛びたり
046:常識(178〜202)
(内田かおり)昨日得た常識ひとつ更新し明日過去ログに落とす予感す
(佐山みはる)「常識ってめんどくせえな」閉ぢかけた絵本のページにおおかみが言ふ
(里坂季夜) 常識はひとの数だけある時代モンスター用マニュアルを読む
(千坂麻緒) 常識の猫さえうまくかぶれない遮断機の前で立ち尽くす朝
061:ピンク(156〜180)
(近藤かすみ) コスモスは昔ながらのピンクにて母と歩いた野の道に咲く
(村本希理子) 助産婦はペールピンクを身にまとひひときは暗き階段に消ゆ
(佐山みはる)ピンクより薄紅色といひたきを秋桜ただ風にゆれをり
064:宮(151〜175)
(村本希理子)働いてるふりだけしてる子宮にもお休みなさいは言へないでゐる
(さと)モノクロの小さな写真教科書に 澄んだ眼してた宮沢賢治
(佐山みはる)迷宮に遊ぶここちにフィッシャー展出てあぢきなしビルのあはひは
081:早(128〜153)
(TIARA)幸福な時ほど早くアナログの長針そっと戻す十六夜
今泉洋子)どれだけの時間をもつているのだらう六道の辻を足早に過ぐ
(寺田ゆたか)後のことみな細々(こまごま)と書く妻にまだ早いとは口に出せざり
(ワンコ山田) 早朝のまどろみ二人は手をつなぎ夜のしっぽを捕まえた夢
083:憂鬱(129〜153)
(近藤かすみ)おだやかなハワイの歌を聴きながら手懐けてゐる憂鬱いくつ
(吉里) 憂鬱をお手玉にして放り上げ空行く雲よ風よと渡す
(TIARA) 聞き分けのいい子も飽きて憂鬱をビビッドカラーで塗りつぶす朝
(紫月雲)憂鬱と言うのは簡単だなあつて塾帰りの子つぶやいており
(寺田ゆたか) 憂鬱の字は似合はざり ユーウツと明るく云ひて笑む人なりき
(村本希理子)憂鬱といふほどでないユウウツな午後売れ残りの弁当を買う
(星桔梗)憂鬱な時こそ花を飾る術いつしか身に付け今を生きてる
085:クリスマス(126〜150)
(お気楽堂)大いなる期待は外れクリスマスイブのシフトを出勤とする
今泉洋子)「いたはり」とふクリスマスローズ花言葉猫と一緒にあなたにあげる
086:符(127〜151)
(駒沢直)少しでも君の思想を知りたくてバンドスコアの音符なぞる日
(emi) 書きつくすことできぬまま朝が来て疑問符ばかりのメールを送る
(湯山昌樹) ウインドゥの八分音符のブローチを贈るあてなく視線をそらす
今泉洋子)どこまでも続く刈田の電線に音符のやうな月のぼりゆく
(村本希理子)数枚の切符散らばる 午後九時を過ぎて無人の駅の改札
097:断(101〜125)
(五十嵐きよみ) 習慣で差し伸べられているだけの手と知ったから断わっていい
(流水)遮断機の向こう側にはもう既に顔も忘れた夏たちがいる
100:好(101〜125)
(寺田ゆたか) 旅立ちはよく晴れた日が好いわねと死の近き妻ぽつりつぶやく