題詠100首選歌集(その83)

 この催しも、余すところ後2日となった。現在のところ完走者は143人、去年の160人より少し少ないが、ゴールぎりぎりの方もかなりおられるので、おそらく去年の数はかなり超えるのではないかと思う。先日も書いたように、例年はちょっぴり格好を付けて11月3日の文化の日に「百人一首」を掲載していたのだが、今年はそのような恰好付けの節目もないので、12月の5日前後ということになるのではないかと思っている。


  
   選歌集・その83


006:水玉(312〜336)
(内田かおり) スカートの水玉模様ゆらゆらと明るく揺らし夏の子等行く
(寺田ゆたか) 点滴の小さき水玉きらめいていのちをつなぐ宝石となる
(まゆねこ) いつからか水玉模様の傘があり子等も大きくなつてしまえり
075:おまけ(153〜179)
(寺田ゆたか)キャラメルのおまけの鬮さへ吉なるに何ゆゑ汝(なれ)は大凶を引く
(月原真幸)おしまいにおまけのようにつけたしたことばがすべてだった10月
(里坂季夜)リプトンのおまけスウィーツとりどりに扉に揺れるロッカールーム
076:住(151〜175)
(ワンコ山田)ゆっくりと寝言で夢を語るひと一緒に住むと決めたうたたね
(小林ちい) 夢に見るのは五年前母国語の違う誰かと住んでいた町
(桶田 沙美)君が住む黒潮洗うあの街は今でも海が綺麗でしょうか?
(千坂麻緒)一切の理由は不明クマの絵の住所変更通知の葉書
(内田かおり)この山に住まう狸は道端の笹に隠れる前に振り向く
(ろくもじ)週末はモデルルームに行く予定 住むはずのない相手を連れて
077:屑(153〜178)
今泉洋子)香りなき金木犀の花殻は星屑のごと庭に散らばる
(寺田ゆたか) はららきて屑となり果つ白骨(しらほね)の軽きを拾ふ手の鈍さかな
(kei) 冬の海に淡い身の上話など聞かせ散りばめている星屑
(小林ちい)トーストから落ちる屑さえ愛らしいあなたの部屋で迎えた朝は
(田中ましろ) 僕たちがベッドへ向かう花道のように瞬く冬の星屑
079:恥(151〜175)
(bubbles-goto)母親をおふくろと呼ぶ恥ずかしさ未だ慣れずに次郎柿剥く
(ワンコ山田)かさぶたで閉じ込めた恥部君の手のひなたの匂いにほどかれていく
082:源(151〜175)
(月原真幸)電源を切れないままのケータイがまだ震えないから眠れない
(内田かおり) 流れ来る細き水湧く源を探せば君の手の柔らかき
(佐山みはる)水源を指でたどりつ島原の湧水群を地図に見てをり
(田中彼方)ナスターシャ・フィリポブナという源氏名の、女の身の上話を聞いた。
084:河(154〜180)
(ワンコ山田)河口堰あたりで夕日立ち止まり夏至の私を待っててくれる
(月原真幸)天の河よりも光の束となりビルの隙間を行くモノレール
(佐山みはる)かうもりが飛ぶゆふぐれの河に来て小さく泣けり嘘つき少女
096:マイナス(128〜153)
(村木美月)マイナスな気持ちにひとつ縦棒を引いてプラスに変える午後ティー
(紫月雲) 我こそがマイナスである歓びに明け方の夢の中に揺蕩う
097:断(126〜151)
(茶葉四葉)ふり注ぐきみの笑顔を断って 決めねばならぬことひとつある
(近藤かすみ) 毛糸玉のうちよりつぎつぎ繰り出して帽子できれば断つ赤い糸
(松原なぎ)断水に汲む日向水たくさんの思い出に泣くような温もり
(花夢) 断定をさけてあなたと話し合う未来がそろそろ擦り切れそうで
(ワンコ山田)平面の診断書には書いてないなぜ転びやすい躓きやすい
098:電気(128〜155)
(流水)川風に電気ブランの酔い醒まし 高層街の廃墟が燃ゆる
(花夢)いつか孵化するだろうにくしみを電気毛布であたためている