題詠100首選歌集(その84)

 いよいよゴールの前日、しかも最後の週末。走者のピッチもかなり上がって来たようだ。明日は、多分選歌集が何セットかできて、何便かに分けてお届けすることになるのだろうと思う。走者の方々のゴールをお待ちしています。


          選歌集・その84


020:貧(252〜277)
(寺田ゆたか)まだ若く貧しい夫婦であつたよねピアノを欲しいと願ひし頃は
(宵月冴音) お囃子も貧しき家には遠からむ桔梗手折れば秋暮れてゆく
027:既(230〜254)
(夢雪)既視感(デ・ジャ・ヴュー)を感じた時のめまいにも似た感覚の昨夜の情事
(寺田ゆたか) 夕暮れは既視感(デジャビュ)を連れてやつてくる初めてキスをした日のやうに
039:広(204〜229)
(yunta)広縁であなたが唄う子守小さき頃の記憶やさしく
(里坂季夜) 忘れられた虹の根元の広場にはしゃぼん玉吹く少女がひとり
(冬鳥)最終のバスを降りれば広場はもう 海をむかえている石畳
(寺田ゆたか) 妻逝きて遺品の整理始むれば広くなりゆく孤り居の家
(久野はすみ) あでやかな菊の絨毯 広場にて始まるものと終わるものあり
042:クリック(201〜225)
(佐山みはる)いざなはれクリックすれば日輪にいま月輪の重なるところ
(Ni-Cd) クリックのたびに手と手を重ねたる講師につけるあだ名で迷う
(千坂麻緒)×印クリックをして窓を消すガスコンロの火、きちんと青い
048:逢(179〜204)
Ni-Cd) 逢おうねが褪せるアルバム君の顔ぼやけはじめてまた降る桜
(桶田 沙美) 放課後の逢瀬誰にも気づかれず甘味処でぜんざい食す
(はせがわゆづ)窓辺には陽が降り注ぎカーテンが揺れてる きみに逢えない小春日
050:災(182〜207)
(佐山みはる)いにしへの災ひ星とや満月にぽつちり赤い星がよりそふ
(千坂麻緒) 笑ってはダメです防災訓練の早足でゆく晴れた校庭  
ひぐらしひなつ)災いのように降る雨 やさしさの記憶ばかりが崩れず残る
052:縄(178〜202)
Ni-Cd)きりきりと縄に結われたまま君と話せば紅く照りかえす窓
(寺田ゆたか)糾へる縄のごとくに寄り添ひし四十九年のときの短さ
(千坂麻緒)お互いに行ったことない沖縄の連想ゲームの果てない夜更け
(青山みのり)泥縄は避けねばならずあいづちの代わりに返すうすきほほえみ
056:アドレス(176〜200)
(内田かおり)おずおずとアドレスを訊く君である携帯を出す指の細くて
(鯨井五香)港区のアドレス誇るマンションのチラシに芋の皮は降りつつ
(佐山みはる)アドレスは空き地あるゐは路の上ミミと呼ばれる野良猫がゐる
ひぐらしひなつ)三月の鳩さながらに教えあう蔦の絡まるメールアドレス
099:戻(128〜158)
(流水)終バスの灯が暗闇に溶けてゆく戻らぬものは優しく残る
(星桔梗)戻したい時が有る事告げられず離した指に想いが残る
(近藤かすみ) 今となれば堀川一条戻り橋水なき溝に枯葉あつまる
(ほたる)踏み出した背中のドアが閉じられて「戻る」ボタンを連打している
(bubbles-goto) 猫戻る未明の夢の外側でミルク皿打つ春の雨垂れ
100:好(126〜150)
(流水) 「好き」という気持ちがほんとは好きなだけ マトリューシカの微笑みの奥