題詠100首選歌集(その85・86)

 泣いても笑っても最終日。皆様お疲れさまでした。
 今日はおそらくこれ1便では終わらず、あと何回か選歌集を今日の欄に追加することになるのだろうと思う。そして、明日以降「選歌単位(25首)未満」の題の選歌をして、それから百人一首作りに掛かることになるのだろうと思っている。(12:40記)



        選歌集・その85


028:透明(232〜256)
(鯨井五香) 透明な鳩の匂いがふくらんで北の港に六月がくる
(フワコ) 透明なテキストボックス重ねてはつぶやきみたいなため息載せる
(ぱん) オフィスを出れば広がる透明な暗闇 冬はそこまで来てる
(緒川景子)透明な瓶をならべてつくる虹 空っぽの部屋でたそがれたくて
(星川郁乃)透明な傘を打つ雨いまここにいないあなたにすき、とつぶやく
030:牛(233〜257)
(フワコ) くろぐろと深い森を見るような瞳の牛に見透かされてる
040:すみれ(204〜228)
(寺田ゆたか) 唄に似てすみれの花の咲く頃に君を知りたり半世紀前
(冬鳥) 鳥低く飛ぶ曇天に制服の子ら別れゆく すみれのころを
(泉)一鉢の三色すみれにこと足れり冬の庭には冬の色置き
054:首(177〜202)
(茶葉四葉)渾身の短歌もどきを一首そえ世間話をよそおうメール
(みち。)首のないマネキンならぶ 渋谷ではめずらしく星のある夜なのに
(里坂季夜)お姫様の絵を描くときはたのしみに最後にとっておく首飾り
(ぱん)肩よりも髪を短くした春の露わに心細い首すじ
055:式(177〜203)
(里坂季夜)キオスクで朝刊を買い二両目の座席で開く月曜の儀式
ひぐらしひなつ) いつまでも終わらぬ祝辞 式典の空に色づく果実かぞえて
080:午後(157〜183)
(やすまる)あなたより吹き出づる風は秋の日の静かな午後を金色にする
(ほきいぬ)したいことしたくないこと全部ぜーんぶほったらかして猫になる午後
(ぱん)急行の停まらない駅 君探すくせが抜けない曇り空の午後
081:早(154〜180)
(yunta) 足早に過ぎ去る君の幼児期のきらめききらり手からこぼれて
(内田かおり)若さとは遠くなりたり早さにも遠くなりたりとぷりと夕陽
085:クリスマス(151〜176)
(月原真幸) 「楽しい」が「楽しかった」に変わってく クリスマスの夜の帰り道
(千坂麻緒)クリスマス中止の理由は出尽くして眠った亀とさしで飲もうか
086:符(152〜177)
(花夢)部屋じゅうに散らかっている感傷を音符の絵柄の靴下で踏む
(kei)感嘆符に満ちた青空スキップでどんどん増えていく四分音符
(月原真幸)免罪符にもならないと知りながらいつかもらった手紙をたたむ
087:気分(152〜178)
(ぷよよん)水色のやらずの雨は気分屋で時間をのばす魔法をかける
(内田かおり)ときどきは優しい人である気分桜の色のブラウスなどで
(佐山みはる)つれづれに敗者の気分湧ききたる夜はひらたくなつて寝るべし
ひぐらしひなつ)冬陽さすフェンスの裏で気分屋のあなたを待って揺らす前髪



 締切りまであとわずか。流石に投稿のピッチが随分上っており、今夜のうちにもう1回くらい選歌集が作れるのかも知れないが、どうせ中途半端になるのだろうから、それに少々くたびれもしたので、残りは明日以降の総ざらい(≒落穂拾い)に回そうかと思ったりしている。(21:53記)

             選歌集・その86


021:くちばし(254〜279)
(青山みのり) 派手好きな夫に対するくちばしを失くしてからは本音をいわず
(星桔梗)くちばしでついばむ程の量でしか推し量れない夢の片鱗
(寺田ゆたか)雨の園にくちばし赤き鳥を見し異国(とつくに)の旅 あれは六月
(星川郁乃) くちばしのない生きものであることの愉悦 わたしはやわらかな水
029:くしゃくしゃ(228〜253)
(フワコ) キッチリと畳めないという遺伝子があるのか子らのシャツはくしゃくしゃ
(寺田ゆたか) 髪伸びてくしゃくしゃだよと言ふ妻の半ば白きを指で梳きやる
(青山みのり)くしゃくしゃになった思考に蓋をして電子レンジで温める夜
(星川郁乃)くしゃくしゃに丸めたような一日をそっとのばして忘れましょうか
(鳴井有葉)くしゃくしゃにされた頭を戻すまであなたのものよといいたげな顔
041:越(206〜230) 
(里坂季夜) ひっそりと蔓をのばして冬越しのペチュニアが咲く二月ふたたび
(青山みのり)越えるべき壁の高さをしらぬまま歩みだす子の言葉が痛い
(田中ましろ) 引越しの荷物が消えたこの部屋に君と最後の記憶を刻む
078:アンコール(155〜184)
(月原真幸)アンコールより本編を最初からやり直したいような人生
(佐山みはる)暗黙のルールのごとくアンコール乞ふ手拍子のたかまりてきつ
(ろくもじ) アンコールアワーを君と観ていると結婚しようと言いそうになる
083:憂鬱(154〜178)
(内田かおり)夕暮れに憂鬱いくつ持て余し夕陽の赤に車を焦がす
(佐山みはる)見るからに憂鬱さうな顔をしたをんな映れり地下鉄の窓
088:編(157〜181)
(佐山みはる)三つ編みのアン・シャリーを友のごと思ひてをりき十ニのわれは
(田中彼方)ほんとうの母と娘のように編む、シロツメクサの花のかんむり。
ひぐらしひなつ) やさしかった記憶を編んで老いてゆく降り積む雪のあかるさのなか
089:テスト(151〜179)
(田中彼方)「本日は晴天なり」と書いてあるテストメールが君から届く。
(千坂麻緒)三年の期末テストの最終日モノクロ映画のチケットを買う  
090:長(155〜182)
(ワンコ山田)手をつなぐ夢見た朝の指先を隠して長く伸ばす袖口
(佐山みはる)お御籤に「気長に待て」と諭されし今年もわづかにひと月となる
(千坂麻緒) 髪を長く伸ばし始めたほんとうの理由は言わない 真冬の苺
ひぐらしひなつ)細く長い吐息のあとで打ち明けて薄暮の椅子に目を閉じていた
091:冬(154〜179)
(内田かおり) 朝靄の立つ暖かき初冬には村人の顔のほのぼの優し
(やすまる) 深々ときよらな朝に立てるなら冬の魚の声で話そう
(小林ちい)まず息を白く曇らせ夜明けごと完璧な冬が近付いてくる
(月原真幸)冬凪のような日曜 もう二度と逢えない人の残り香を聞く
(青山みのり)雲の間の鳥のかたちの青空のとびゆくさきを冬と呼びたし
092:夕焼け(153〜182)
(一夜)越前の荒れ狂う波静まりて カモメも赤く染まる夕焼け
(花夢)ゆっくりとこころを染めて決めてゆく夕焼けこやけあなたがにくい
(kei) 石蹴りの石と一緒に夕焼けの薄い欠片を拾い集める
(佐山みはる)夕焼けの六郷土手に犬連れた人つぎつぎに現れて消ゆ
ひぐらしひなつ) 夕焼けをとどめるように背を向けて走る あなたをあきらめそうで
(小林ちい) 君が溶く筆の茄子紺 夕焼けの空の端から静かに満ちて