題詠100首選歌集(その87・88)最終版 

 1年近くの長丁場のレースも昨日で終わった。後は、残りの選歌と百人一首の作成のみだ。まず、残りの選歌集をお届けする。通常は10題を単位にしているのだが、今日は最後なので、在庫25首以上の13題をまとめて、「その87」とした。
 在庫25首に届かない題は多数あるので、その選歌を今日から明日にかけてやろうと思っている。間に合えば今日のこの欄に追加して載せるかも知れないし、くたびれれば明日に回すかも知れない。
 皆様お疲れさまでした。私はこれから「お疲れ」になります。


       選歌集・その87


004:ひだまり(329〜353)
(佐山みはる) 「ひだまりのやうな人」とふありふれた形容ありて弔辞つづくも
(里坂季夜) ひだまりの羊になった夢さめて指笛低く吹く羊飼い
(まゆねこ)ひだまりの草に紛れて眠る猫十月桜の花が見守る
(青山みのり) なにげなく踏んだひだまり 封印の解かれたみずのごとく微笑む
(久野はすみ)だれもだれも踏むことのなきひだまりに戦ぐ笹ゆり 帰去来兮(かえりなんいざ)
Ni-Cd) 坂道で君がおとした水彩の絵の具を見つけ坂はひだまり
(寺田ゆたか) 赤白のポリアンサスの小さき鉢ベッドで見えるひだまりに置く
HY) ひだまりに猫と老婆は良く似合い共にうたたねしてる午後2時
019:ノート(253〜277)
(はせがわゆづ) ルービックキューブを解かないままでいた白紙のノートは進まなかった
(久野はすみ)ノートパソコンぱたりととじて向日葵のおおきな顔を睨み返せり
(絢森)その声を記すノートを枷にしてきみをきりとる中庭の朝
(寺田ゆたか)亡妻(つま)の残せるノートの終り羽田発バスの時刻が書いてあるのみ
031:てっぺん(228〜253)
(みち。) てっぺんはてっぺんなりに悩むのだ お子様ランチの旗をへし折る
(ぱん)山を為す洗濯物のてっぺんにそろりと載せる今日の靴下
(久野はすみ)てっぺんに星を飾られ樅の木はひばりひなぎくひなたを恋いぬ
032:世界(226〜250)
(星桔梗)バリヤ張り自分の世界を崩さないそんなあなたの弱みを探す
(寺田ゆたか) まだ生きて地の果てまでも旅せむと世界地図見る病の床に
(はせがわゆづ)夏色に染まった記憶を紐解いて褪せない世界に佇んでいる
053:妊娠(180〜204)
(勺 禰子) 妊娠線がやさしくからだを伸ばしゆく をんなのかたちはいつでもかはる
(里坂季夜) 花粉症は妊娠すれば治るよと口説かれていた遠い三月
ひぐらしひなつ)妊娠を告げておんなは花鋏へと手を伸ばす春の陽のなか
(なゆら)偽りの妊娠告げても君はただとんがりコーンの残り気にする
093:鼻(155〜185)
ひぐらしひなつ)まっすぐに朝の牧場を駆けてきた冷たい鼻を両手で包む
(月原真幸) 鼻先が冷たいことを確かめてまたマフラーを巻き直してる
(里坂季夜)目をつむり耳もふさいだそれなのに鼻が知らせる冷たい夜明け
094:彼方(154〜189)
今泉洋子)瑠璃色の空の彼方にむなしさをひとつおきさり闌けてゆく秋
(わらじ虫) 彼方って案外近いえりちゃんは隣りの街に引っ越すらしい
095:卓(154〜186)
(ワンコ山田)フーコーの振り子が空から円卓に花弁を描き示した自転
(kei)電卓の液晶数字が揺れだした背中をぐいと押してる西日
(千坂麻緒)軽快な音で電卓たたくためジェルネイルに今日星をのせます
ひぐらしひなつ)卓球台ひらかれたまま廃村の公民館閉ざされる霜月
(鯨井五香) しずかなる別れ話のテーブルで出番の多い卓上レモン
(里坂季夜)ありがたき「今日の言葉」が沁みすぎて一枚破る卓上カレンダー
096:マイナス(154〜185)
今泉洋子)マイナスのしかうばかりが襲ふ日は登りてみたし秋空の階(きだ)
(佐山みはる) 今日もまたマイナスパワー撒き散らす権化のごとき同僚(とも)をおそるる
(千坂麻緒) 前年比マイナスばかりの報告をペットショップの鳥に聞かせる
(月原真幸) 展望は常にマイナス傾向で営業スマイルだけうまくなる
(青山みのり)マイナスの記憶ははつか咀嚼されひたむきに飲む三ツ矢サイダー
097:断(152〜182)
(星川郁乃)断水を告げる張り紙はりはりと鳴らしてわたる風はつめたい
(青山みのり) ほめられてつぼみのゆるむシクラメン 血のつながりは断てぬものなり
(里坂季夜) 気づかないふりしていよう油断したきみの背中がこぼした本音
098:電気(156〜187)
(佐山みはる)まくらべの電気スタンドかたまけて古い手紙を読みかへしをり
(kei) もう愚痴を言うのはやめたふつふつと電気ポットのお湯が沸くから
(わらじ虫)少年が電気仕掛けの能面のように夜道で覗く液晶
(久野はすみ)臘梅の香りとともにくるだろう電気仕掛けのような一月
099:戻(159〜187)
(内田かおり) ときどきは戻りの道を忘れ居てぐるぐる回る明日に着くまで
(kei) 後戻りできない今日の側面にメタセコイアの正しい樹形
ひぐらしひなつ)戻されることなき本の厚さなる空隙を抱き暮れる書棚は
(みぎわ)解らずと言ふはたやすし万の歌の揺り戻しくる律を愉しむ
(月原真幸)巻き戻しボタンを押してしゅるしゅると絡め取りたい今日の後悔
(わらじ虫)歳月をふたりの意思で巻き戻すように歩幅を合わせあう道
100:好(151〜187)
(村本希理子)かんたんに好きと嫌ひは入れ替はる 薔薇のコサージュバッグにつけて
今泉洋子)竈猫(かまねこ)の話弾みて猫好きの親子の夜はしんしんと更く
ひぐらしひなつ)好きですと言えばやさしき崩壊の序章がしのびこむ春の道
(里坂季夜)好き勝手ばかりの一生だったねと言われるだろうぼくの終わる日



 明日になるかと思っていたのだが、ついついエンジンが掛かってしまって、最後の積み残しの選歌も終えてしまった。これで明日からは百人一首に専念できるというものだ。これまでも折に触れてお詫びして来たように、至って勝手な、かつ、刹那的な判断による選歌であることは十分自覚しているが、何の権威もないあそび心の産物ということで、皆様のお許しを頂きたい。



選歌集・その88(単位未満の積み残し全体の選歌)




001:笑(377〜391)
(寺田ゆたか) 微笑みが消えて幾日経つだらう死の近きこと察しゐる妻
002:一日(352〜358)
(なゆら)柚子を煮てすごす一日書を置けばホーロー鍋はふつふつと鳴る
003:助(339〜358)
(まゆねこ) 助からぬものと思いし捨て猫の野良になりつつ秋のまた来る
(青山みのり) まなざしの鋭さだけを残しつつ去る子の今日を助走とおもう
(寺田ゆたか) 介助されようやく舐めた一匙のアイスクリーム唇(くち)より垂れる
006:水玉(337〜338)
(HY)ふわふわと水玉模様の傘ゆれて記憶の母はいつも愛(かな)しく
008:飾 (305〜323)
(寺田ゆたか) 病床を飾る一輪挿し破(や)れぬ 不吉な予感胸をつと刺す
009:ふわふわ(304〜317)
(まゆねこ) ふわふわの尻尾一二度振り終えて老い猫ほおっと安らぎ逝きぬ
010:街(314〜317)
(まゆねこ)紅葉するけやき並木の街ゆけば魚群の如く落ち葉散りゆく
013:カタカナ(279〜302)
(鯨井五香)砂場からかさかさ掘ったカタカナを如雨露の水でやわらかくする
(ぱん)カタカナ語ばかり飛び交うこの部屋で「媒体費」とのみ打ち込んでいる
(久野はすみ)カタカナのまじりし文の色あせて博物館に咲く酔芙蓉
(なゆら) なんとなくこそばゆくって君の名をカタカナにしてつぶやいている
014:煮(281〜298)
(藤矢朝子) さよならと切り出す君はみそ煮込みうどんみたいに歯切れが悪い
(寺田ゆたか)やはらかに煮えし子芋をゆつくりと食みしその口すでに動かず
015:型(280〜298)
(青山みのり)型抜きでぬいたみたいな朝がきて目玉焼きには味塩こしょう
(寺田ゆたか)型通りの言葉連ねる葬儀屋のべたりの敬語耳にまつはる
022:職(252〜271)
(緒川景子) 休日の職員室の先生はみたことのない顔でわらった
(星川郁乃)かつて職場の看板のあった空白を百均のロゴが埋めゆく真昼
(やすたけまり) 「職員室」アバウトな名を持つ部屋がきょうは子猫をあずかっている
023:シャツ(258〜266)
(宵月冴音) Yシャツのポケットかえすその時にましろき花のくらやみに舞う
(星川郁乃) 誰の抜け殻だろう長椅子に糊っけのないシャツが寝ている
(やすたけまり) たいせつなことばもたぶん折り曲げてシャツのかたちにたたんだ手紙
025:氷(252〜259)
(宵月冴音) 透明な蜜が氷に融けてゆきやがて見えなくなる夏祭り
(なゆら) 「いいわけは聞きたくないの」ウィスキーグラスの氷かんからと鳴る
026:コンビニ(254〜262)
(羽根弥生)氷天のオリオンの下ほのぼのとコンビニエンスストア息づく
033:冠(230〜252)
(寺田ゆたか) 愛冠(アイカップ)とふひと気なき停車場に寄り添ひて写真撮りし日もあり
(久野はすみ)太郎冠者的にいこうか薄紅の椿いちりんぼんやり灯し
034:序(227〜243)
(寺田ゆたか)好きだよと直ぐには言へぬわれなれば序詞(じょことば)のごとき長き前置き
HY)「序の舞」を舞う瞬間の緊迫美 松園きりり描きあげたり
(宵月冴音) 革命の序曲弾くならパリがいい眠れぬ夜のカトルズ・ジュイエ
035:ロンドン(227〜238)
(みち。) 落ちるたびつよくなるならそれもいい ロンドン橋を口ずさむ夏
(久野はすみ)ねむの木にねむの花咲きロンドン屋の氷ロンドン懐かしむ母
(羽根弥生) しらしらと春の雨降り ロンドンの街の輪郭やはらかくなる
036:意図(227〜234)
(星川郁乃) 意図しないことも伝わりアネモネ花言葉など思う真夜中
037:藤(230〜239)
(宵月冴音) 藤色の便せんでした あなたから 名字の変わる私信 とどいて
038:→(227〜237)
(久野はすみ)アネモネの花にまつわるものがたり[順路→]のようなきみに話そう
042:クリック(226〜229)
(久野はすみ)クリックの音も途絶えてマウスから水仙の芽ののびゆく師走
(星川郁乃)クリックを躊躇うほどの理性ならかろうじてある 文字列を消す
043:係(204〜223)
(冬鳥)だれもみな帰る家(や)を持つ夕暮れを飼育係の閉じるきりん舎
044:わさび(202〜218)
ひぐらしひなつ)わさび擂る指の往き来の正しさに言い出せぬまままた別れくる
045:幕(203〜220)
(久野はすみ)万象は紗幕のむこうにあるような 欅がこぼすさみどりの花
046:常識(203〜219)
ひぐらしひなつ)常識の範囲とやらに惑いつつ線など引いてみる紙の上
047:警(205〜216)
(久野はすみ)警句集ひもとくひぐれ梔子は茶色にあせてなお匂いたつ
048:逢(205〜209)
(星川郁乃)なにかもう「逢う」という字の似合わないことに安らぐ君といる午後
(ME1)忍び会う逢瀬を演じ託すには少し濃すぎるヘブンリーブルー
049:ソムリエ(203〜210)
(はせがわゆづ)ドルチェひとつきみと分けあうソムリエの選んだ夜はただただ甘い
(久野はすみ) ソムリエの偏愛のごとくふりやまぬ雨がミモザを鮮やかにする
051:言い訳(202〜211)
ひぐらしひなつ)告白も言い訳めいて濁りなき五月の空に速度を落とす
(フワコ)ひとつづつ落ち度を指摘されるたび言い訳ひとつ探しに行きぬ
(みぎわ) どのやうにとり繕へども言ひ訳の見苦しかれば黙(もだ)してをりぬ
(なゆら)雨音が強くて何も聞こえずにとぼける午前二時の言い訳
052:縄(203〜211)
(村本希理子)沖縄のひかりを買ひしと思ひたるビアグラス闇ふかく抱けり
054:首(203〜207)
HY)首筋に残る愉悦の刻印をそっと撫でてる遅起きの朝
057:縁(178〜200)
(佐山みはる)縁踏まぬ礼儀作法を教へるにぎこちなきわが歩みとなれり
(千坂麻緒)手首には絹の縁(えにし)の糸をつけ少女はひとり 溶ける黄昏  
(里坂季夜)縁側でおもいだす日も遠くないおとぎ話はクライマックス
(星川郁乃)このごろの西瓜の味がうすいのは縁側のない家のせいです
058:魔法(179〜198)
(佐山みはる)この先に魔法使いが住むやうな古家がありてアロエ花咲く
(青山みのり) 魔法などつかえぬゆえに湯を沸かし空腹に待つカップラーメン
059:済(177〜199)
(寺田ゆたか)これでまう親しき人へのお別れはみな済んだねと妻は指折る
ひぐらしひなつ)すべて済んだあとのふたりのようになる雨の朝することをなくして
060:引退(176〜197)
(茶葉四葉)引き際の潔さなどひとごとに「引退」選ぶニュース見ている
(佐山みはる) さてといふさまに引退したき世の冬にはふゆの花を愛でつつ
(千坂麻緒) ファンファーレ心の中で鳴り響けひとりっきりの引退試合
(里坂季夜) びしょぬれのスポニチ覗きあぶさんの引退を知る台風前夜
ひぐらしひなつ)ガーベラを瓶に挿す日は引退を告げて遥かなひと思いだす
061:ピンク(181〜197)
(桶田 沙美)久しぶりピンクハウスの服を着て鏡の前で少女に戻る
(内田かおり)沈む陽に染まるピンクの愛(かな)しみは耳朶にまで沁む星がゆくまで
(星川郁乃) もう着ない色の一つに数えつつ心に残すピンクの残像
(みぎわ)アザレアの暗きピンクの口紅をほのぼの差して齢(よはひ)をやつす
062:坂(178〜197)
(笹本奈緒)フランスパン抱えのぼればオレンジが転がってくるありきたり坂
(内田かおり)かさかさと落ち葉踏みつつ坂道の細きを行きて遠ざかる街
(青山みのり)おそらくは金木犀の花の散る今が一番うつくしい坂
(里坂季夜)上り坂どこまで続くゆるやかに先のみえないしあわせもある
(ぱん) 実家への坂を登れば思い出す あぁ、このまちは星がきれいだ
ひぐらしひなつ)坂のない町に暮らして思い出す二度と呼ばれることのない名を
063:ゆらり(181〜202)
(佐山みはる) ゆらりんと呼ばれし友も胴太き中年となりマイク離さぬ
(笹本奈緒) 寝不足で講義受ければ1/fのゆらぎのゆらりが見える
(青山みのり)親殺しのニュースに息を詰めたあと子の焦点のゆらり揺れおり
(里坂季夜)天井から答えの出ない問いかけがゆらりと降りてくる午前四時
(はせがわゆづ) 月がまた満ちてゆくから水面でジェリーフィッシュゆらり揺れてる
(星川郁乃)指先をつないで歩く 月の夜と少しの酒にゆらりと酔って
(みち。) ゆらり、ということばの歯ざわりたしかめるようにあなたを揺らす三月
064:宮(176〜193)
(青山みのり)竜宮へかえらぬままの亀を飼い今年もひとつまた年をとる
ひぐらしひなつ)断ち切ったものを数えて晩秋の夜明け神宮のめぐりをあるく
065:選挙 (180〜201)
(里坂季夜)選挙カーの窓から鵺が手を振って過ぎる初秋の駅前通
ひぐらしひなつ) 選挙ポスターの故人の笑みを濡らしつつ十一月の雨降りしきる
067:フルート (177〜196)
(里坂季夜) 牧神のフルートに似たかたちしてひろがってゆくかなしい予感
ひぐらしひなつ) 運指表色褪せながら黄昏れる巻楽器店フルート売場
(久野はすみ)中庭にフルートの音の流れきてすこし濃くなるサルビアの蜜
(みぎわ)銀管を吹き渡る風フルートの中を甘やかに貴女が満ちる
068:秋刀魚(176〜196)
(青山みのり)あばら骨みたいな雲のあらわれて夕餉の秋刀魚買いにゆきたり
(わらじ虫)しんぴんのタオルケットにくるまって眠りたい日が秋刀魚にもある
ひぐらしひなつ)夕暮れに秋刀魚買う日は傾いたわたしのなかでなにかが終わる
069:隅(178〜200)
(青山みのり)終点にちかい夜景の片隅を【おかえりなさい】のネオン横切る
(里坂季夜) あれやこれ隅に押しやり走る日々せまくよごれてゆくマイルーム
ひぐらしひなつ) 忘れられて片隅にある冬枯れの鉢にやさしい陽射しがとどく
(星川郁乃) 思い出の隅をわたしが掠っても気にしないでね 揺れるコスモス
070:CD(180〜197)
(桶田 沙美) 貴女への想いを込めたCDを「告白ディスク」と英語で題す
(内田かおり) 送られて来しCDのジャケットの混沌とした閉ざした若さ
ひぐらしひなつ) CDを選ぶ横顔つまさきを冬のひかりに深く浸して
(久野はすみ)B面のなきせつなさのああひばりCDに聴く「りんご追分」
072:瀬戸(181〜193)
ひぐらしひなつ)縁日の瀬戸物市の賑わいを離れてひとり海を見にゆく
073:マスク(176〜194)
(佐山みはる) カラフルな台湾マスク群れとなり赤信号に溜まりてをりぬ
(千坂麻緒)電車では三人ほどがマスクして冬の日差しが淡くやさしい
(みぎわ) マスクして眉目秀麗たれもたれも手妻の中の別人になる
074:肩(177〜191)
(内田かおり)銀杏葉は肩に一枚そのままで黄の温もりに小さく佇む
(久野はすみ) その肩のくぼみに添うよう作られしわれの頭蓋か カンナが光る
075:おまけ(180〜194)
(星川郁乃) お菓子よりおまけの欲しい子のように見落としてきた転機いくつか
076:住(176〜190)
(わらじ虫)住み慣れた街に今年も居心地の悪い季節が桜を咲かす
(里坂季夜)友の住む宮城・近江の新米の微笑みに負け2キロずつ買う
078:アンコール(185〜190)
(久野はすみ)アンコールの拍手も消えて劇場に広がる青いネモフィラの海
079:恥(176〜192)
(ぱん)恥ずかしい記憶ばっかり きみの眼の最後のわたしはどんなでしたか
(久野はすみ)恥知らずなことを一途に思いつつれんげ畑のある町にゆく
080:午後(184〜190) 
(里坂季夜)グーグルと戯れすぎた晩秋の短い午後をぱたんと閉じる
(はせがわゆづ)泣きそうなあなたの午後を包みこむできたて卵のような温度で
(みち。)思い出をきれいに遺したくはなくて火曜の午後につくる空白
081:早(181〜190)
(星川郁乃) (このごろは日暮れが早い)そしてまた明日に延ばす手紙の返事
(はせがわゆづ)にわか雨ばかり降ってる早朝の着信ランプはすこしつめたい
082:源(176〜192) 
(みぎわ)いとこ煮のいはれ聴きつつ源平の血の近さゆゑ憎しみ合ふか
(ぱん) 洗濯機の電源を入れ一週間分の重みを確かめている
083:憂鬱(179〜190)
(鯨井五香)憂鬱はレモンの輪切りにまぎれこみフォークの先で薄く光れり
(ぱん) 憂鬱は部屋いっぱいに満ちあふれチェーンロックの隙間をもれる
085:クリスマス(177〜187)
(里坂季夜) 厳かにクリスマスケーキを切り分ける昭和の父の右手の記憶
086:符(178〜190)
(青山みのり)いつまでもつづく話にアカペラの十六分音符のしおりはさみぬ
087:気分(179〜191)
(星川郁乃)気分というふたしかなものにはこばれていきたくなくて読む電子辞書
(里坂季夜)固まったかなしい気分すりつぶしジンジャーハニーレモンに溶かす
088:編(182〜191)
(久野はすみ)断片におしろい花を貼り付けてただ一行のわれの掌編
(里坂季夜)ひとつづつ編み図のマスを埋めてゆく色鉛筆の芯のたしかさ
089:テスト(180〜192)
(ぱん)住むつもりないのに部屋をさがしてる テスト期間のようなゆるさで
090:長(183〜189)
(ぱん)去年とは違うわたしが立っている 長袖のなかを通る秋風
091:冬(180〜186)
(久野はすみ)冬枯れの庭に山茶花あるようにわが胸に咲くひとりのなまえ
(里坂季夜)永遠にみていたかった夢さめて冬色の空泳ぐ三日月



選歌なし:005:水玉(337〜338) 007:ランチ(312〜334) 011:嫉妬(306〜308) 012:達(287〜307) 016:Uターン(282〜299) 017:解(282〜290) 018:格差(288〜292) 020:貧(278〜279) 021:くちばし(280〜281) 024:天ぷら(253〜262) 027:既(255〜258) 028:透明(257〜260) 029:くしゃくしゃ(254〜255) 030:牛(258〜262) 039:広(230〜236) 040:すみれ(229〜232) 050:災(208〜213) 055:式(204〜207) 056:アドレス(201〜206) 066:角(182〜197) 071:痩(177〜197) 077:屑(179〜195) 084:河(181〜197) 092:夕焼け(183〜192) 

残り(選歌の対象)なし:004:ひだまり 019:ノート 031:てっぺん 032:世界 041:越 053:妊娠 093:鼻 094:彼方 095:卓 096:マイナス 097:断 098:電気 099:戻 100:好