続々・天下り考(スペース・マガジン12月号) 

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。振り返ってみると、このところ、政治がらみの堅苦しいテーマの連載が続いたような気がする。来年は、もう少し肩の凝らない話題を見付けようと思ってはいるのだが、果たしてそんな平和な(?)気分になれるのかどうか・・・。



[愚想管見]    続々・天下り考             西中眞二郎


 日本郵政の社長に、元大蔵事務次官の斎藤さんが就任した。副社長にも官僚OBが三人就任するという。人事院総裁にも、元厚生労働事務次官が就任するようだ。「天下り」に対する拒絶反応が強い昨今、いずれも意外な人事だった。
 
 何度か書いたように、私は元「天下り官僚」である。いわゆる天下りに関し全面的な否定論者ではないし、全面的な肯定論者でもない。「天下り」による各種の弊害は承知しつつも、利益重視体質の企業出身者を「民」なるがゆえに肯定し、長年公益を意識して仕事して来た官僚OBを「官」なるがゆえに否定するという昨今の風潮には、かなりの抵抗を感じているのも事実である。
 とすれば、今回の人事にはプラスの評価を与えても良さようなものだが、単純に肯定する気持にもなれない。以前の日本銀行の総裁・副総裁人事の折、当時野党だった民主党が反対した最大の理由は、「天下り」ということだったと記憶している。そのときの反対理由と、今回の選任理由との使い分けがどうなっているのか、明快な説明は聞こえて来ない。
 「政府の判断で、適材適所の人事を行う」のだとすれば、これまでの民主党の姿勢は何だったのかという疑問は消えないし、「各省庁による斡旋はダメだが任命なら良い」というのも、良く判らない論理だ。一言でいえば、政府あるいは与党有力者の好みに合ったケースだけがまかり通るという御都合人事だと言えなくもない。
 報道によれば、鳩山総理が日本郵政人事の話を聞いたのは、公表前日だったという。政策的に重要な人事であるのみならず、これまでの持論に反するような人事が、いとも簡単に決まってしまったということにも、疑問を抱かざるを得ない。

 内定時の斎藤さんの記者会見のセリフも合点が行かない。彼の会見内容によれば、「民間企業も経験しているし、元官僚という意識はない」ということのようだが、その通りだとすれば、どうにも納得し兼ねる。退官後20年以上経過しており、決して「大物」とは言えなかった私ですら、プラス、マイナス両面で、「元官僚」という意識は持っている。大物大蔵次官と言われ、しかも退官後比較的日も浅い斎藤さんに、「元官僚」の意識がないのだとすれば、「あなたにとって長年にわたる官僚生活は一体何だったのですか」と問いたくもなる。また、「民間経験」とは言っても、純然たる民間企業での叩き上げではなく、いわば財務省天下りポストとでも言うべき半ば公的な組織のトップであり、それを「民間経験」だと言うのは強弁のそしりを免れまい。

 
 私の持論からすれば正面切って異を唱える性格の人事ではないようなものの、どうも釈然としない気持を抑えることができない。マニフェスト金科玉条とする硬直的マニフェスト至上主義と、説明責任を果たさないままにそれを裏切る御都合主義とが併存していると見るのは、いささか酷に過ぎるというものなのだろうか・・・。
(スペース・マガジン12月号所収)