題詠100首選歌集(その1)

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の会にここ数年参加しており、勝手な選歌を進め、終了後に百人一首を作るのが例年の倣いである。今年も、私の意欲と体力が続く限り、同じようなことを勝手に進めて行きたいと思っている。
 今年は、都合でちょっと出遅れたが、私の作品も第10まで投稿したので、そろそろ選歌にかかったところだ。平時のペースは、25首以上貯まった題が10題揃ったところで選歌集にまとめることにしているのだが、はじめの方の題はもう随分貯まっているので、スタート時の例外として、トータル250首程度をメドに、題の数にはこだわらずに選歌集をまとめて行こうと思っている。数日経てば平時のペースに戻るのだと思う。
 なお、題の後の数字は、会場のブログのトラックバックの件数をそのまま利用している。誤投稿や二重投稿もあるので、実作品数とは必ずしも一致していない。
(自作の投稿前には他の方の作品は読まないことにしているので、選歌の一足先に自作の投稿をして行こうと思っている。したがって、しばらくは両者がジグザグに進んで行くのだと思う。)


選歌集・その1

001:春(1〜126)
(蓮野 唯)「貴方だけ」言葉の楔打ち込んで甘く縛ろう彼の青春
(こなつ)パステルの淡いほのかな青が好き ミュール誂え春への助走
(船坂圭之介)春いまだ丘へ来たらず風寒し目瞑りて聴く杳き余情を
(天国ななお)おとなしく春を待つ子のかたわらに冬を忘れる母のぬくもり
(水絵)花冷えに少年僧の声澄みて 小袖まといし春の山々
陸王立春と云えども芽吹く気配さえなく携帯をあけてはとじる
(藤野唯)祝福をされたくて買う春キャベツ 今日はどんな話をしようか
(れい)4Bの鉛筆で春を描いてく桜の花と君の素肌と
(コバライチ*キコ)挽きたての春の珈琲ほろ苦くまぶたの裏に滲む空色
(越冬こあら) 膝小僧のような形の春が来て職業欄にはパーカッショニスト
(hjr) ジャスミンに嫉妬のことばまぜながらひらりひとひら春を浮かべた
(梅田啓子)飛行船うかぶ春には地球から「天地無用」の貼り紙はがす
(みずき) さへづりの春冷えとなる静けさに命いくひら育つこの朝
(太田ユリ)早売りのジャンプみつけて駆け出した君の背中に春がこぼれる
今泉洋子)はろばろと睦語りする蝋梅のこゑに聴き入る春のあけぼの
(酒井景二朗)かたくなな風のよぢれがほどかれてこぼれはじめた春の粉末
(アンタレス)  二人の娘嫁ぎゆきしは共に春桜吹雪を浴びつ巣立ちぬ
(青野ことり) 装飾をひとつひとつと剥ぎ取って萌えだす春に耳を澄まそう
(秋月あまね)革命に憧れながらこの町を棄てる覚悟を決めかねて春
(竹本未來) 薄紅の花びら食めば内側に 広がる春は仄かな苦味
(原田 町) 百本の玉葱の苗ひょろひょろと春立つ朝の雪に耐えおり
(笠原直樹)伸ばされてこきりと鳴りし青年の首より春はかそけく立てり
(zoe) 日だまりに三人またがり春が来る東京は春によく雪が降る
(駒沢直) 春いろの服を買いたい日があれば死ぬ日のことはしばし忘れて
(中村成志) 日陰みち杉木を蹴れば足裏(あうら)よりぽかりと剥がれおちし春泥
(伊倉ほたる) 選ぶのはベビーピンクのマシュマロで春よ今年も従順であれ
(音波)新しく真っ赤に爪を塗ったのは右手に春を迎える儀式
(こゆり)愛されてみるのもたぶんわるくない 春一番にさらす巻き髪
(行方祐美) 杜子春の話が聞きたくなりました二月六日の朝の雪に
(高松紗都子)春浅い海の水はまだ冷たくてしびれた指に藍がからまる
(砂乃) 俯いたガーベラひとつ取り上げて春に浸して風を溶かそう

002:暇(1〜111)
(船坂圭之介)隠れ扉のごとき暖簾を分け入れば有象無象の暇潰し居り
(伊藤夏人) 君用に作った時間が流れ出す明日はきっと暇だと思う
松木秀)人生は死ぬまでの暇つぶしだとうそぶいてみて春風寒し
(みずき) 暇といふ時間を閉ざし弛びなき潮騒を聴く冬のをはる日
(笠原宏美)「暇だから」と「寂しいから」は似てるかな。ケータイ電話は哀しい魔法
(中村あけ海)三月の夜にきらめくぼくたちの繰り越せなかった有給休暇  
(竹本未來) 光舞う袋小路の白猫に 持て余される暇と静寂
(梅田啓子)ひねもすを暇ひき寄せて食(は)みてゐる検査結果を待つきさらぎは
(永居かふね)冬晴れの青空のなか寝ころんで真昼の月が暇噛みしめる
(れい)デパ地下で試食してみた肉じゃがを買わずに帰る、休暇も終わる
(イノユキエ) 潰された暇のかけらを掃除機に吸わせこの部屋には何もない
(伊倉ほたる)指先で暇をつぶした箱の中チェルシー柄の鶴が犇めく
(橘 みちよ)夢に来て暇を告ぐるひとありぬうつつに吹雪く夜のまにまに