題詠100首選歌集(その4)

 またまた冷たい雨の降る冬の一日となった。庭で餌をついばむメジロの羽の色も心なしかくすんで見える。題詠の過剰在庫(?)もそろそろ正常化したので、次回の選歌集からは、「25首以上10題」という従来のペースに戻して選歌集を載せようかと思っている。

       
      選歌集・その4

012:穏(1〜49)
(tafots)穏便な手段と父のいうときの諦め慣れた笑いは軽く
(中村あけ海)平穏に過ごしたい午後内線の受話器を上げたままにしておく
(菅野さやか) 合鍵で開けた扉のその奥に不穏分子が正座している
(はこべ)穏やかな春の午後にはテレビ消し群れおるつぐみ数えておりぬ
(船坂圭之介)おとがひを尖らせつつも満顔の笑み穏やかに君語る恋
(髭彦)吾をして穏やかなリと生徒らの評しくれけり短気のわれを
013:元気(1〜42)
(晴流奏)恩師への手紙はちょっと強がって元気で居ます一つだけ嘘
(みずき) 元気とふ心かそけく雪の舞ふ青いろインクの寂しさのなか
(間宮彩音)玄関で笑いかけてる人形に元気づけられ始まる今日も
(髭彦)年上の親しき友を案じ打つ<メールのなきは元気な証拠>と
014:接(1〜38)
(晴流奏)接点を持ちたい君は遠いからせめて今だけ手を繋がせて
(コバライチ*キコ) さりげなくセーター越しに接してる君の体温に気づいたあの日
(水絵)生姜湯の接待受けし山桜 ほろほろ散りて喉に沁みおり
015:ガール(1〜35)
(じゅじゅ。)シャガールマティスに逢いに来たニース 陽光(ひかり)の中のそれぞれの青
(みずき)シャガールの絵筆を青く持つ指は青の時間を砥ぎ澄ましたる
(ひじり純子) 娘持つ母はガールズファッションのカタログめくり夢を見ている
(詩月めぐ)チョコ作りほったらかして盛り上がる母娘三代(おやこさんだい)ガールズトーク
016:館(1〜31)
(あかり)タイトルに惹かれ幾度も手にしたが未だ未読の『緑の館』
(ひじり純子) 図書館の書架に斜めに陽が射せば茜の色に染まる西雲
(船坂圭之介)子規記念博物館に冬陽射し白亜の壁に暖かき影
017:最近(1〜30)
(みずき)悲しみと夢を交互に最近の私がゐますなほ飛べぬまま
(髭彦)最近はNHKまで視線をば目線と言ひて恥じる様子(さま)なし
018:京(1〜28)
(晴流奏)漆黒の宇宙にぐいと突き立てた東京タワーをめぐる星々
(あかり) 東京の田舎に住んで憧れています故郷に続く青空
陸王京友禅竿に通してチマチョゴリ箪笥に仕舞う二十五の春