題詠100首選歌集(その5)

 在庫のトータルが250首になったので、とりあえず選歌集(その5)をまとめた。次回からは、25首以上10題という平時のペースに戻したいと思っている。

      
       選歌集・その5


001:春(127〜159)
(壬生キヨム)手のひらのわずかな春を君の手に移す手品を練習している
(木下奏)何もかも新しくなるわけじゃないでも揺れ動くそんな春の日
(日向奈央)失恋もしたことですし眠ります 起きたら春でありますように
(村上きわみ) いきている壜をえらんで汲みにゆく春の水ならこぼさぬように
(斉藤そよ) ZAGZAGと二月の夜をふるわせる 春まだ遠い凍み雪の道
(鳥羽省三) ねばねばと毛氈苔の吹き出でて法然院の春はたけなは
(ぱかり) 伝えたいひとが僕にもいることを春一番と同時に気づく
(わたつみいさな) 耳たぶのうしろにできた陽だまりを春と呼ばずにもうすこし待つ
002:暇(112〜148)
(高松紗都子)暇があれば会おうね(だけど暇だとは言わないくせに)三月の雪
(田中ましろ)青空と暇とあなたを持てあます午後 沈黙は孤独に近い
(日向奈央)「暇だね」とふたりでまどろんだ時間をまだ思い出と呼べずにいます
(本間紫織) 「休暇中です」の看板ぶら下げて夏の終わりをつかまえにゆく
003:公園(95〜121)
(西野明日香)公園の藤棚越しの夕焼けのきょうだい喧嘩の理由忘れき
(高松紗都子)公園に待ちくたびれた影ばかりのびて踏まれて夜にとけこむ
(こゆり) 給食のパンくず鳩にやりながら独りを知らないままの公園
004:疑(80〜116)
(村上きわみ) うながせばあふれるものを疑ってあなたがたどり着く汽水域
(梅田啓子)次の日もけふと同じ日あることをつゆ疑はず白菜漬ける
(西野明日香)携帯を開けば過ぎぬ時ありて疑うことはなおも哀しい
(行方祐美)疑ひもたまには欲しいふゆふゆと子供のやうな無い物ねだり
(髭彦)疑ふと信ずることの間をば歩みて行かむ六十路の旅も
(穂ノ木芽央)天気のみしるして閉ぢた日記帳 疑ふといふことを覚えて
005:乗(63〜99)
(髭彦)銀の宙に浮かびて独り乗るリフトの吾に雪の戯る
(中村成志)両の掌をいっぱいに突き幼な子は言葉もらさず踏み台に乗る
(音波)最後まで取り残された乗車待ちタクシーの灯が壁に色づく
(南雲流水)きっとまた遇うことあればと思うだけ寂しさ深き地下鉄に乗る
006:サイン(57〜95)
野州)気の利いた言葉ひとつが浮かばずにあなたに送るブロックサイン
(南野耕平)見逃したサインを確かめるように昨日の夢のつづきを探す
(行方祐美)サインなき手紙のやうな海のいろ肋骨の下がまた痛み出す
ウクレレ)ぬばたまのサインコサイン黒色のタンクトップの君を抱く夜
(笠原直樹)表札に油性ペンにて「D」のサイン付けられ春は穏やかならず
019:押(1〜26)
(みずき) 押し花はページのあはひ滑り落ち消えし約束白く象る
(詩月めぐ)押し寄せる波に気圧され立ちすくむモノクロームの冬の千里浜
020:まぐれ(1〜26)
(晴流奏)気まぐれな空の涙は凍りつき雪降る夜に積もる静けさ
(みずき) 気まぐれな恋はゆらりと闇に咲くひとひら赤き冬さうびなる