題詠100首選歌集(その6)

           選歌集・その6


005:乗(100〜124) 
(sei)乗車拒否とふ言葉すら知らぬ子と夜の駅前あるいてをりぬ
(竹本未來) 眩暈するほど儚げに舞い降りて睫毛に乗った春待ち雪よ
(ふみまろ) 許すこと選んだひとを乗せてゆく湾岸線に虹のあしあと
(瀬波麻人)乗車率二百パーセントの車窓から見上げた空を深呼吸する
(さむえる) 電脳の素敵な世界に乗り換えて君はだんだんうそつきになる
007:決(61〜88)
野州)いい加減な決意のやうに風に舞ふ凧を見上げて家路をたどる
(こなつ)今日こそは己に嘘はつくまいと 心に決めて髪を結う朝
(穂ノ木芽央)生真面目に決めかねてゐるそのあひだの永久(とは)にひとしき温きを愛す
(牛 隆佑)決められていた結末をていねいに組み換えてゆくような日曜
(梅田啓子)<スト決行>の文字薄らいで岡林信康の髭ととのひてあり
(中村成志)街路樹の根に決められた事のごとヒメツルソバの溢るる速さ
008:南北(58〜82)
(如月綾)あの人の家まで向かう南北線 明日からはもう乗ることもない
野州)街川は少しかしぎて南北に流れてゐたり鴨を浮かべて
009:菜(53〜78)
(砂乃)白菜を引き抜く母の傍らで土にぬくもり返す手のひら
(空音) 直伝の煮浸し作る小松菜の甘みに祖母の笑顔を想う
(穂ノ木芽央)俎(まないた)の菜を切る音をききたくて途中で買つてゆくほうれん草
(野州)オイル染み少し気にして菜つ葉服着たままきみの母親に会ふ
(新井蜜)つまみ菜をごま和えにして炊きたてのご飯を食べた父のいた日々
(行方祐美)「菜根譚」を捜しに行かう運河沿ひにさざんくわの咲く朝の図書館に
(sei) 霜うけし菜のやはらかさ今朝摘みて食せば春の香のこぼれたり
(周凍)野にあふる菜の花あつめて風かよふ天井川に春は流るる
011:青(36〜61)
(船坂圭之介)葬送の曲遠鳴りぬ友ひとり青き冬空へ逝く日の午後
(駒沢直)塗りつぶす青一色が僕ならばそこに一筆(ひとふで)君の黄色を
(砂乃)青臭いトマトを土産に里帰り今日はとことん「昔」を語ろう
(庭鳥)十六のあの日憎んだ青い空帰らぬ人はあまりに清く
(わたつみいさな)目を合わすこともないまま図書館の学習室の青い背表紙
(ぱぴこ) カーテンじゃ隠し切れない真夜中が朝に向かって青ざめていく
(周凍) 淡青に白を浮かべてやはらかに芽ぐむ柳に雨はふりつつ
(斉藤そよ)背の高い氷の壁にかこまれて青空だけを見てた火曜日
021:狐(1〜26) 
(はじめ) はれの日に狐の嫁入りある時は君の流した涙と思う
(菅野さやか)道端の狐アザミを愛でていた母よ空き地は更地になった
(ひじり純子) 手袋を買いに来たのは狐の子そんな幻見せる雪の夜
022:カレンダー(1〜25)
(間宮彩音)すみっこの日付が読めぬアイドルのカレンダーまだ去年のままに
(ひじり純子)今月の心の中のカレンダー しるしをふたつつけておきます
023:魂(1〜26)
(みずき) 魂を震はす恋の夏ならむ打ちて還らぬ波に奔れり
024:相撲(1〜25)
(アンタレス)相撲には興味なき人引きつけし若貴兄弟今は懐かし
(じゅじゅ。) 母としたおおばこ相撲思い出し踏まずに歩く公園の脇
026:丸(1〜25)
(tafots)今ここで役立つものはTシャツと正露丸だけ 君のトランク
(アンタレス) 丸き背を更に丸めて老い二人何を希うか選挙に急ぐ
(髭彦)熊楠が説のをかしく牛若もナントカ丸もオマルのマルと