題詠100首選歌集(その7)

 今日の気温は四月なみとか。昼過ぎにちょっと出掛けたら、たしかに春の気配を感じた。


        選歌集・その7


003:公園(122〜148)
(日向奈央)疲れてもあの公園のベンチにはひとりで座れないままの冬
(ふみまろ)公園の緑電話で百円玉三枚分の夜をかさねた
(ぱぴこ)公園のすべり台から夕焼けが子鬼のように近づいてくる
(けぇぴん) なるやうになるさと言って寒空の下の公園にぶらんこを漕ぐ
006:サイン(95〜119)
(sei) 見逃ししサインはいつもやさしさを伝へくれしを 夜つめを噛む
(壬生キヨム) ひとりでは居られぬ夜に手作りの婚姻届にサインをしている
007:決(89〜115)
ウクレレ)ひだまりのなかでぽわんと抱き合って決めかねているぼくらの未来
(のわ)ケータイの決定ボタンぐらついてあなたにメール送れずにいる
(さむえる)もう二度と媚びぬと決めた昼下がり大音声(だいおんじょう)でうどんをすする
(藤野唯)2ヶ月に一度くらいはしおらしい女になろうと決意している
010:かけら(50〜75)
(砂乃)突然に二人の別れは訪れる失くしたかけらそのままにして
(空音) 君の持つかけらが吾のジグソーの最後のピースか試しませんか
(秋月あまね) 衛星がかけらとなって散る時の ここまでが空 ここからが宇宙
(庭鳥)恋心かけらも見せず軽口を飛ばし話を繋いでる日々
(梅田啓子)幸せが塊だつた若き日の零したかけらいま集めてる
012:穏(50〜75)
(駒沢直)穏やかな君の寝息が掻き立てるこの苛立ちは独りで殺す
(わたつみいさな) かたちあるものだけでいい穏やかな穏やかな夜星が流れる
(ぱぴこ) 給食の匂いが残る五時間目穏やかすぎる国語の授業
(チッピッピ)布団から娘の寝息もれ聞こえページをめくる穏やかな夜
(梅田啓子)穏やかに暮らしてゐると思へども花舗のガラスに険しき顔あり
(理阿弥) 怒りもてスタミナ弁当喰らへる日アジア穏しく横たはりをり
025:環(1〜25)
松木秀)おとずれた金環食へ矢を放ちケンタウロスの上げる前脚
(みずき) 冬涛の暗さに環かけせつせつと雪の波郷の遅き秒針
027:そわそわ(1〜28)
(みずき)そはそはと心艶めく午後を舞ふ冬蝶熱き恋の翅もち
(髭彦)五輪こそたかがされどの世界なれ時にそはそはときにはらはら
(間宮彩音)自信なく手に教科書を持ちながらそわそわしてる試験直前
(船坂圭之介) 更けるほどそはそはしつつ待つものは恋文ならぬ 星の秘め言
028:陰(1〜28)
(tafots)静物に陰をつけゆく絵の外の光の在り処を確かめながら
(みずき)木陰から携帯の鳴る夕暮れはきつと拒絶と遠く思へり
(髭彦) 陰翳をせめて刻まむわが顔に美男の血筋受けつがざれば
(ひじり純子)エプロンで手を拭きながらふとよぎる心の陰に巣食う邪(よこしま)
029:利用(1〜25)
(中村あけ海) 始末書の例文集が庶務課にはありますどうぞご利用ください
(間宮彩音)赤点のテスト利用しつばさ折る 飛んでけ空へ紙飛行機よ
030:秤(1〜25)
(映子)秤には載せられないよ 恋だもの   思う気持ちは 軽くてオモイ
(みずき)天秤に撥ねてし魚は魂のなかなる海に触れて黙(もだ)せり
(晴流奏) 横顔に片思いしてバランスが取れない僕の恋の天秤