題詠100首選歌集(その9)

 チリ地震の影響で津波が来るとか。過剰防衛も困るし、さりとて過小評価はそれ以上に怖い。テレビ画面の右下は津波地図に占領され、テレビが見にくくなっている。何か工夫があって良いところかと思うが、むずかしいところではあるのだろう。


            選歌集・その9


001:春(160〜186)
(ぱぴこ) これは春きみが私に手渡した花びらよりも薄いチケット
(鮎美)立春の真夜のしづけさ父母の血より生れたる爪切り落とす
(綿花)採寸に尖らせたあごわずか引く春に中学生となる君
002:暇(149〜176) 
(村木美月) 構ってる暇がないっていうようなやさしい嘘を見抜いた夜明け
(ぱぴこ)暇だからかけてみたのと長電話おなじ話題で笑い転げる
(けぇぴん) 日の落ちて今この時の静かなる風生ぬるく暇持て余す
(花音)暇だとは認めたくない寂しさをネットの中で無理やり埋める
(オオタセイイチ) 大好きな空色のかばんにいっぱいの暇詰め込んで深呼吸した
008:南北(83〜109)
(ふみまろ) 南北をつなぐ海道どの島にいたのだろうかあの花嫁は
009:菜(79〜104)
(梅田啓子)菜の花の束ね棄てられたる中にそこより伸びる一本のあり
(中村梨々) 菜の花におぼれて黄色 人ひとり忘れて春の朝に目覚める
(藤野唯) あなたとの子供をいつか産むのだと気付かされ摂る多めの野菜
(ふみまろ)春野菜すててあなたは出ていった貨物列車のひきずる町を
010:かけら(76〜103)
(ミナカミモト) 天上のかけら降り積み花はみな赦されて散る雪の夜半に
(原田 町) 蕗のたうふたつみつ摘み青春のかけらのやうな苦さを食めり
(こなつ)乱雑な机を見やりそこここに 君のかけらを探しておりぬ
(越冬こあら)君にかけられた魔法か幾晩も恋のかけらに追っかけられる
(葉月きらら) 散らばったかけらを集めこれからは二人で作るジグソーパズル
011:青(62〜86)
(mmm) 青すぎる空 吹き過ぎる風の中 愛しすぎたと怒られている。
(こなつ) 燕(つばくろ)の翼はナイフ空を裂く青きブラウス身にまとうため
(ふみまろ)ゆびを噛むアフリカの子よなんという瞳の底に沈む青空
(こゆり) 「海」という名のバスソルト溶かしつつ青い秘密を口止めされる
020:まぐれ(27〜51)
(コバライチ*キコ)校庭にしまい忘れたハードルが所在なさげに立つ夕まぐれ
(sei)はぐれ雲あかるく染まる夕まぐれ生きるといふはうつくしきこと
(砂乃) まぐれでもいいから君に触れたくて満員電車に滑り込む僕
(船坂圭之介) 気まぐれを許されてをり春ひなた所在なき身を如何に過ごさむ
(わたつみいさな) 春の日がきまぐれみたいにやってきて私の冬を浮き彫りにする
033:みかん(1〜26)
(tafots)妹は完璧に塗り上げた爪を みかんのへそにふかぶかと挿す
(伊藤夏人)暖かいみかんの色のコート着て僕は今日だけあなたを覆う
(髭彦)箱買ひのみかんを食みて指先の黄色くなりし冬のありたり
(わたつみいさな) 人肌に温もっている手のひらのみかんはわたしを温めている
034:孫(1〜25)
(tafots)受話器より祖母の鼻声洩るる夕 ひ孫を抱きたいという贅沢 
(アンタレス)来る筈の孫の来ずして買いおきし節分の豆声ひそめまく
035:金(1〜25) 
(映子)寝返りもうてず一日床の中  指の金色 揺らして眠る