題詠100首選歌集(その10)

先日愛用のパソコンが壊れてしまい、結局新しいものに買い換えた。幸い古いドキュメントは復活させることができたので、最悪の事態は避けることができたのだが、選歌はこの間お休みになってしまった。それに、新しいものにはまだ馴染んでいないので、何となく使い勝手が悪く、もたついている状態だ。いずれ慣れて来るのだろうとは思いつつ、しばらくはこの状態が続きそうだ。ドキュメントが復活できたのは良いが、これまで送受信したメールの記録は全部消えてしまい、これは復活不可能だという。たいした記録は入っていないとは思いつつ、何となく不安な気持も残っている。
 選歌を休んだ間に、在庫はかなり貯まっているようで、ここ数日は、選歌集を続けるのだろうと思う。


       選歌集・その10

004:疑(144〜168)
(村木美月) コーヒーに溶かして混ぜて飲み干して消化できない疑惑がみっつ
(氷吹郎女) まっすぐに信じるよりも少しだけ疑ってみて欲しい日もある
(あひる) 啄木の妻と眺めし花の名を知らねど菫と疑わずをり
(新野みどり) 教科書も疑っていた 硝子窓の空ばかり見た中学時代
005:乗(125〜155)
(高松紗都子)偶然に乗り合わせたね、この星に輪廻の果ては知らないけれど
006:サイン(120〜144)
(ましを)だれよりもやさしいおんなになるためにネオンサインの真下でねむる
007:決(116〜142)
(高松紗都子)決め手にはならないほどのやさしさにふれた気がした今を抱きしむ
(本間紫織) かなしみと決別しよう 柔らかに相合い傘の持ち手をつかむ
(久哲)ツァーリーと呼ぶべき人を決めかねて春の事象をウェブに探す
009:菜(105〜131)
(高松紗都子) たどりつく指から染まる思い出の菜の花畑は人待ち顔に
(村木美月)いちめんの菜の花揺れてひだまりに溶けこんでいく愛が溢れる
(音波)あの人の教えてくれたひとつずつ染み入るように菜種梅雨降る
(竹本未來)君の手にそっと摘まれる鶯菜 ひだまりの香に揺れる前髪
021:狐(27〜52)
(砂乃)玄関に狐の面を飾りたる祖父は祭りを愛してました
(船坂圭之介) 広き額秀でたる眉なつかしの狐狸庵先生眠る本屋に
(如月綾)あれはきっとすっぱい葡萄と諦めた狐みたいに君を忘れる
022:カレンダー(26〜50)
(船坂圭之介) カレンダーめくりつつ思ふ去りゆきしバレンタインのチョコの甘き香
(空音)カレンダーめくるころにはほころんだラナンキュラスが想い届ける
(龍庵)会える日に青マジックで流星を書くためだけにあるカレンダー
036:正義(1〜25)
(みずき)正義なる美しきもの翳しゐる政治 櫻(はな)咲く夢はもう見ぬ
(菅野さやか)真っ当な主張が時に厭わしい正義漢より偽善者が好き
037:奥(1〜25)
(夏実麦太朗)親不知を抜いたるのちのならいとて奥歯のおくを舌でまさぐる
(間宮彩音)ポケットの奥にたしかにあるはずの君の街までつながる切符
038:空耳(1〜25)
(tafots)言い返すかわりに笑う 舌打ちは空耳だって思おうとした
(シホ)朝早く あなたの声で 目が覚めた もういないのに 空耳なのに
(みずき)春雷のとほき気配は空耳か真闇の夢と思(も)ひつまた寝(い)ぬ
(わたつみいさな) 凍えてるひとにかぎって空耳に似合うピアスをさがす春さき
(Yosh)悪口を空耳として捨て置けず 地獄耳より地獄に堕つる