やさしい機械(スペース・マガジン3月号)

 今日は久々の上天気。午前中は風が冷たかったが、午後は気温もかなり上がりそうだ。例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。


[愚想管見] やさしい機械                 西中眞二郎

 預金通帳が一杯になったので、銀行の自動機械で新しい通帳の発行手続をしていたら、後の男から「何をぐずぐずやってるんだ」と怒鳴られたことがある。おそらく後の男は、私が何もしないで機械の前に突っ立っているのだと思ったのに相違ない。そのような誤解やトラブルを避けるためには、機械が「ただいま通帳切替手続中です」とでも発声してくれたら助かる。この点、駅の自動券売機で回数券を買う場合、「ただいま回数券を発券しております」とかなり大きな声で喋ってくれるので、ほかのお客に余計な気を使わずに済むし、後のお客はほかの券売機を使う選択ができる。
 もっとも、駅の券売機に不満がないわけではない。「投入金額が不足しています」というセリフは、あまり大きな声で言って欲しくはない。言われなくても気がついて、次の10円玉を入れようとしている場合が多いのだ。銀行のATMなどで、矢継ぎ早に次の手順を指示されるのも嫌なものだ。こちらが操作に迷っているような場合は別として、せかされているような不快感を抱くことが多い。
 駅の話に戻る。例えば1万円札で2300円の回数券を買った場合、買った人の側から見れば、お釣りのお札とバラ銭と回数券を、それぞれ財布やポケットに入れるという複数の行動が必要になる。ところが、回数券とお釣りが同時に出て来るものだから、こちらは慌てて複数の行動をせざるを得ない。回数券が出て来るのには幸い多少の時間が掛かるのだから、まずお札のお釣りが出、次いでバラ銭のお釣りが出、最後に回数券が出て来るようにすれば、お客も慌てずに順次行動できるわけだし、駅の側から見ても、お客が券売機を独占する時間が多少なりとも減り、券売機の効率が上がるような気がする。

 最近の自動販売機の類は、随分働き者の知恵者が多いが、頭が良過ぎるのも考えものである。機械の反応が早過ぎて入れたカードがすぐ戻って来たりすると、「何か問題があって拒否されたのかな」と不安を感じてしまう。受けた機械が1秒か2秒「考えるふり」をした後でカードが戻って来れば、ちゃんと判断して受け付けてくれたのだという安心感を持つことができる。銀行のATMなどで感度が良過ぎるものもある。ちょっと迷ってパネルの上で指を遊ばせていると、その下の数字や文字がそのまま入力されてしまい、はじめからやり直さざるを得ないという経験を何度かしたことがある。もっとも、感度が悪くてなかなか入力されない怠け者の機械に出くわすこともたまにはあるが・・・。

 「マン・マシン・インターフェイス」という言葉がある。機械と人間とのかかわりについての技術上の重要課題のようだが、「やさしい機械」と意訳しても良いだろう。以上の私の経験は、日常レベルの「マン・マシン・インターフェイス」の問題だとも言えそうだ。
(スペース・マガジン3月号所収)