題詠100首選歌集(その13)

 選歌集・その13

010:かけら(104〜128)
(リンダ)淋しさのかけらを集め出来上がる人の形のわたくしがいる
(高松紗都子) 無防備な未来を分かちあった日の君のかけらは手のなかにある
(酒井景二朗) 滿月に呼びかけられて立ち止まるブリキ細工を賣る店の前
(南雲流水)幾片の骨のかけらでしかなき身 時計の針もこぼれて落ちる
(六六鱗) かけらひとつ遺さぬよう掃き清め昨日のぼくを切り捨てる今日
017:最近(56〜83)
(梅田啓子)最近の女子大生はと言はれし日に「純潔」といふ言葉のありき
(虫武一俊)最近、と振り返るとき果てしないかたまりの「無」と向きあって 風
(K) 思うようにならない世界最近の新車はどれも悪人の面
(新田瑛)失ったものは元から無かったと思えるようになれた最近
018:京(54〜79)
(行方祐美)北京への手紙はつかに水ふふみ六花の輪郭にじませてをり
(鮎美) ある夜は女なること呪ひつつ京つげぐしに油塗るなり
(氷吹郎女)憂鬱をくるくる丸め包むなら京紫の風呂敷がいい
(風とくらげ) 何もかもあるって顔して ただ君がいるほか何もない街、東京。
(駒沢直) 東京に勝とうとしてた君といて東京である僕の虚しさ
019:押(52〜78)
(佐倉さき) 押し花より生花の方が美しい あなたはかざらないほうがいい
(リンダ) 問うことを止めた老女の押入れに二度と開けない行李がひとつ
(斉藤そよ) うまれつき思い出づくりに長けている妹が棲む春の押入れ
(新田瑛)押しボタンに触れて躊躇う午前二時 人差し指はまだ生きている
(さむえる)押入れの奥に眠りしアルバムに孤独の色の滲みつつあり
030:秤(26〜50)
(はこべ)お米屋の奥なる壁に懸かりおる点景のごときてんびん秤
(鳥羽省三) 天秤に彼をなぞらえ私には比喩を教える楽しみがある
(畠山拓郎) 妄想を天秤にかけ悩んでも虚しいばかり春の雪降る
(行方祐美)秤量瓶に溜まる吐息か昼過ぎて窓にゆつくり降る雪がある
047:蒸(1〜25)
(みずき) 蒸し暑き夜のベッドの孤独とふ雨の囁きふつと跡絶えぬ
(翔子)此の頃の蒸さずチンする疚しさよ豚まんの端嘲いつかじる
048:来世(1〜25)
(みずき) 愛の嘘のこし来世へ旅立ちし人へ手向けん刺ある緋薔薇
(リンダ) さよならは言わないままでおきましょう。来世もあるし明日かもしれない
(間宮彩音) 来世でも今の自分に生まれたいそんな思いを抱いてみたい
049:袋(1〜25)
(みずき) 掛けられし袋と戦ぐ葡萄園 熟度のほどに白き夏くる
(シホ)右肩が 斜めに下がる 買出し日 レジ袋から はみだしたネギ
(髭彦)表参(オモサン)と聴きてのけぞる馬場(ババ)・袋(ブクロ)・三茶(サンチヤ)・中目(ナカメ)は知りたる吾も
(子帆)大好きな人の空気を詰め込んだスーパー袋捨てに行く朝
050:虹(1〜25)
(tafots)ふち碧き母の虹彩 ひたひたと水を湛えて芙蓉を眺む
(アンタレス)通り雨過ぎ去りし後七色の美しき虹の弧消ゆる迄みむ
(菅野さやか) ふしばった指を震わす母を背に虹の根元に春を探した
(船坂圭之介)声も無く春の光に呑まれ居り 虹よ そなたは消えてゆくもの
051:番号(1〜25)
(tafots) 痕跡を残さず拭い取るように短縮番号すげ換える夜
(菅野さやか)下駄箱で一から始まる番号を選んでしまう一月生まれ