題詠100首選歌集(その14)

     選歌集・その14


001:春(187〜212)
 (百田きりん) 枝々が淡くけぶって いままででいちばん待ち遠しい春が来る
 (ケンイチ)潮騒は君の瞳に煌めいて胸が焦げつく浜の春風
 (拓諳)黒髪に舞う薄紅を焼き付ける春をあなたの季節と決めて
 (さくら♪) 微笑みのかほりかぐはしひだまりで赤子のやうに春に抱かるる
 (ミボツダマ)夕暮れと春がもうすぐ来るという予定調和が僕らを騙す
 (美木)青空に桜と共に君の舞う刹那を春と名付けよう 今...
020:まぐれ(52〜77)
 (行方祐美)たをたをと水ひかりゐつ父といふ呼び名撓めて春ゆふまぐれ
  (斉藤そよ) きまぐれに話しはじめるパペットの通訳だけで暮れる朔日
 (梅田啓子) 赤き実を鳥が啄むゆふまぐれ〈ひとさらひ〉とふ言葉のよぎる
 (虫武一俊)きまぐれに口笛を吹く風のなか廃墟に丸めた背中を向けて
027:そわそわ(29〜53)
 (砂乃) そわそわと花嫁よりも落ち着かぬ父母と今日から離れて暮らす
028:陰(29〜53)
 (コバライチ*キコ) 陰暦に左右されるは女たる宿命か闇の隅を見つめる
 (龍庵)傷付けた傷で自ら傷付いて陰影深く刻み込む爪
 (砂乃)楠の木陰にそっと横たわり地球の鼓動を君と数える
 (理阿弥)星霜に摩滅せる碑の片陰の白き撫子ゆれをる刹那
 (鮎美)をとめごの紺のプリーツスカートの陰翳ふかくけふ新学期
029:利用(29〜55)
 (船坂圭之介) さなきだに若き友等に利用されつつも許しぬ世代差あはれ
 (龍庵) ご利用をお待ち致しておりますと言う自販機のような存在
 (畠山拓郎) 夜もすがら溶け合うような愛しさで私的利用をしてみたい夏
  (鳥羽省三)小屋番に施設利用料なる支払ひを済ませて山行歌会を閉ぢつ
 (氷吹郎女)敬遠をするなら利用するまでと対峙する目にしずかな焔
 (砂乃) 地下街を利用した後だったから朝日が今日はやけに眩しい
031:SF(26〜50)
 (翔子)  SFがファンタジーではなくなってメタリックの海人魚きらきら
 (船坂圭之介) あかときの氷雨零るなか走りゆく SF映画の終焉の影
 (はこべ) 駅前で待ってた君の想い出はいつも読んでたSF小説
 (如月綾) 懐かしいSF映画を借りてきて過ぎた『未来』へ旅に出ようか
052:婆(1〜26)
 (夏実麦太朗)六階の湯湯婆売り場の湯湯婆の栓のゆるみを憂う冬の日
 (みずき) 婆さまがスコッチを呑む日の短か 過去が息づくやうにしやべれる
 (翔子)婆さまの昔語りは怖ろしく今も夢見る囲炉裏座布団
053:ぽかん(1〜25)
 (髭彦)自意識の失はれしとき何故にひとはぽかんと口を開けるや
 (菅野さやか)屋根の上ぽかんぽかんと口開けば野火のゆらめく草地にも雨
 (リンダ)不意打ちにぽかんと口をあけたまま弥生の初め雨に打たれる
 (陸王) あのひとに捨てられた訳わからずにぽかんと口をあけてる埴輪
054:戯(1〜25)
 (みずき)あの誓ひ戯れ言なるか朦朧と春の雪降る耳の哀しき
 (アンタレス)戯れ言も度が過ぎたれば不快なり花見の酒に酔うたふりして
 (髭彦)底意なき人にありけむ僧正の鳥獣戯画のおほらかなれば
 (菅野さやか) ダンボール箱の一番下からは戯曲を模した過去が這い出す
 (船坂圭之介)「呪はれた過去」とふ戯曲読み疲れ硬き枕に面ふせつ寝む
055:アメリカ(1〜25)
 (翔子) 朝夕のベースの街の通学路潮風混じるアメリカ国歌