題詠100首選歌集(その15)

選歌集・その15


002:暇(177〜201)
(リンダ)隙と暇からだじゅうから発散し思春期のむれ自転車で行く
(五十嵐きよみ)眠そうな雌雛のとなりに暇そうな雄雛が並んでいる昼下がり
(黒崎聡美)春の陽に今日という日は横たわりいそぎんちゃくよおまえも暇か
(ミボツダマ) 暇そうなカフェで頼んだコーヒーがまだ来ないからあなたも来ない
006:サイン(145〜169)
(さくら♪)モノクロの我より若き日の母が描きしサイン写真と眠る
今泉洋子) 「ひとさらい」のサインの文字は春の陽に微睡むやうに笹井宏之
012:穏(110〜134)
(こゆり) 目の前であなたが死んでゆく日まで穏やかないい女でいます
(こなつ)穏やかな夜に別れを告ぐるころ 春も名のみの小糠雨降る
(六六鱗) 穏やかな正午と荒れた真夜中と紋切り型が楽な生き方
(中村梨々)穏やかに汽笛は鳴って夕暮れは春のほうへと傾いてゆく
013:元気(99〜123)
(伊倉ほたる) 缶入りの元気は軽く塩を抜きやわらかく噛む潰さぬように
(壬生キヨム)それなりに元気だったらいいんです 検索履歴を一応消した
014:接(94〜119)
(葉月きらら) 今日もまた抑えきれない感情を接吻に変え送り出す朝
(高松紗都子)足裏を地球に接し手のひらを君に接して安寧となる
(こなつ)始まったばかりのふたりの物語 接したその手はなせずにいる
ウクレレ) 予期しないほんのわずかな接点であつい電気が流れはじめる
(中村梨々)あなたとの接続詞には花びらを降り積もらせて春を置きたい
015:ガール(89〜113)
(葉月きらら) もどかしい距離保たれて恋人になれないままのガールフレンド
(こゆり) ほたるほたるそのうち消える命ですシャガールみたいな青い夜です
016:館(83〜107)
(新井蜜) 図書館の窓辺にて読むねぐらには帰る気のないひばりの話
(高松紗都子)旧館と新館をつなぐ回廊にしゃがんで今を拾いあつめる
ウクレレ)いつの日かきみと行きたい異人館だれにも見えない風に吹かれて
(チッピッピ) 死ぬまでに何冊本を読めるだろう図書館でつくため息ひとつ
(青野ことり) 図書館の開架の本のすきまには見えない声がひしめいている
(南野耕平) 図書館の個別ブースにうつ伏せて草食系の見る春の夢
021:狐(53〜77)
(斉藤そよ) ふかぶかと雪降る町へ狐火をたよりにいつか向かう日がくる
(梅田啓子) なまぬるき風吹きゆらり顕るる光のなかの狐の嫁入り
(六六鱗)狐狸狢 宮の宿直の徒然に花散里の春 詠み交わす
(原田 町)狸親爺と狐の婆の騙しあひ化けの皮なぞとつくに剥がれ
(高松紗都子)母の手がつくる狐のかげを見た白い障子はあたたかかった
057:台所(1〜25)
(tafots) 祖母ら皆小さな台所に立ちてフライの山を揚げ続けたり
(みずき) 竃吹く母ともおぼゆ台所 恋ほしき昔(かみ)の若きうなじは
(リンダ)写メールで送られてきた台所のダシ巻き玉子が出来ゆく過程
(コバライチ*キコ)台所で食器を洗う父がおり嫁して二十年生(あ)れし家変わる
058:脳(1〜25)
(みずき)脳葉の重き霖雨へ開きゆく夕顔ほのと宙を濡らせり
(船坂圭之介)花散らす雨に顕ちたり哀しみの脳(なづき)のごとくひとつわが意志