題詠100首選歌集(その17)

 今日も寒い一日。五分咲きの桜が何だか場違いに見える。


<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して6年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


          選歌集・その17



005:乗(156〜180)
(百田きりん) 雪どけの音は優しい乗り物になってあなたを自由にするの
(羽根弥生)暁(あかとき)の冷気をはらみしめやかなる梅一振りを黒盆に乗す
(さくら♪)薄桃の花びらふわり髪に乗せ母は歩きて季節を運ぶ
(黒崎聡美) 乗車口を示すラインに従えば冬のなごりの風に吹かれる
(星川郁乃)メロディーを拒むあなたのリズムには乗りきれなくて ゆっくり歩く
008:南北(136〜160)
(ワンコ山田)あと何度つよく揺れたら真っすぐに南北を指すわたしの地軸
(五十嵐きよみ) 南北が逆さになった地図帳にオーストラリアはハートのかたち
(百田きりん) もし生まれ変わるとしたら南北を軽やかに舞う桜前線
009:菜(132〜158)
(さくら♪) かすかなる息吹なりけり母の手に摘まれて光る若菜の雫
(黒崎聡美) 絡まりがしんとほどけていくようなチンゲン菜を炒める夕べ
(五十嵐きよみ)似ていても姉は果物、妹のわたしは野菜ぐらいに違う
(夜汽車) 白菜が積まれて冬の貨物駅(不揃いの空)(垂直の月)
(百田きりん) 「かわいい」も「かわいくない」も届かないよう菜の花のおひたしにする
(星川郁乃)ゆっくりと菜の花畑を吹いてきた風に温められて 朧夜
017:最近(132〜158)
(穂ノ木芽央) 最近は酒は控へてゐるんだと診察券を見せて笑ひぬ
(チッピッピ)最近のことと思っていたけれどふた昔前「平成元年」
(珠弾) それっぽい顔して売り場に並んでる麦酒もどきが増えた最近
(青野ことり)そういえばきょうは使っていなかった 最近覚えたばかりの言葉
(伊倉ほたる)これからの話をしようあのことは「最近」だけどもう過去だから
018:京(80〜104)
(さむえる)中京(なかぎょう)の八百卯の消えし寺町のいずこに檸檬購うべきや
 (新井蜜)上の子も下の子もまた東京へ行つてしまつた春も来ぬのに
(高松紗都子)なにもかも美化されてゆく背景に昭和をまとう東京タワー
(木下奏) 東京はスタートでありゴールでもある街だから眩しいのだろう
(マメ) 近況を聞かれたくなく寝たふりす午後の京成高砂あたり
(ふみまろ)兵たりし人のこころはつゆ知らず南京町の饅頭を割る
(草野千秋)京土産柚子の香りの練香水 うなじにのせてくちづけを待つ
022:カレンダー(51〜75)
  (斉藤そよ) 神無月、霜月、師走、昨年のカレンダーから陽が漏れて 春
(理阿弥)叔父の部屋の淡い矩形はカレンダーかけた日の色事故より五年
野州)溜息を吐いても厚い雲は垂れカレンダーには休日がある
(高松紗都子)カレンダーやぶく季節の裂け目から未来のようなものの手ざわり
(青野ことり) 来年のカレンダーにはきみのこと書けるだろうか 天気雨降る
034:孫(26〜51)
(いさご) ばあちゃんがわたしを孫と呼ぶときは、なんだかいつも緊張してる
陸王) 孫ができたら抱いてみて足の裏には「大」の字を落書きしたい
(砂乃) やれやれと肩さすりながら孫のため母は今年も雑巾を縫う
(理阿弥) 孫の顔みせてくんろと母の言う鉢のムスクラ枯らしたばかり
(晴流奏) 孫の顔早く見たいという母の丸い背中に貼る湿布薬
062:ネクタイ(1〜25)
松木秀)ありふれた毒づきなりき「ネクタイは首輪と同じ」誰しもが言う
(夏実麦太朗)結局は同じネクタイばかりにておのれの首を絞めている朝
(みずき) ネクタイと指輪を外しかげろふの二人となりて夜を漂ふ
(翔子)ネクタイを選ぶ夫の誕生日もう締めることなきを知りつつ
063:仏(1〜25)
(夏実麦太朗) ゆうぐれの仏壇店のあかるさよガラスケースに鈴ふたつある
(みずき)冬ざれの野に石仏のほのと座すしぐれて光る柔きひとみよ
(翔子)仏にも階級あると知った時ポニーテールが激しく揺れた
(菅野さやか) 仏手柑の匂い満ちたりわが庭の泥饅頭に石を積みおく
067:匿名(1〜25)
(伊藤夏人) お互いが匿名だった 本名は思ったよりも平凡だった
(みずき) 匿名の電話のかもす不気味さが乱す然も無き日日のありやう