題詠100首選歌集(その18)

      選歌集・その18


003:公園(176〜202)
(しろうずいずみ) 公園のぶらんこ乗りが颯爽と春の彼方に消えていく夜
(揚巻)公園のベンチに溶けたジャイアントコーンがじっと夜を見ている
(フワコ)公園のミモザの枝からふるふると見えない音符が飛び立ってゆく
ひぐらしひなつ) 円形の墓地公園をめぐるとき降るものは美(は)し雨もひかりも
(ケンイチ)夕焼けを見送るふたりに潮のみち秋かぜに閉ず江の島公園
010:かけら(129〜153)
(海音莉羽)あふれだし ひかりを放ち 消えてゆく ガラスの色のことばのかけら
(あおり) 悲しみを時が癒していくように波は硝子のかけらを洗う
(草野千秋) 幸福のかけら小さな赤い玉 二人初めてお揃いにした
(星川郁乃) あのころの君のかけらのようなものあつめてつくるきれいなぱずる
佐藤紀子)忘れゐし夢のかけらが輝けり子供の頃の家族写真に
019:押(79〜103)
(高松紗都子)半押しのシャッターずっとそのままに見つめていたい風景がある
(オオタセイイチ) 「別れようか」と言ったのに待つ 押小路麩屋町の角いつもの時間
(橘 みちよ)髪を巻き娘(こ)は制服のスカートを寝押しし眠る明日なにかある
(中村梨々) 冬に背を押されるように3月はつまずきながら春を吐きだす
020:まぐれ(78〜103)
(高松紗都子) 気まぐれを美徳としない君といてあぶり出されるこころのかたち
(マメ) 気まぐれに描いた夏の似顔絵を見つけて閉じるスケッチブック
(草野千秋) 薄闇が表情隠す夕まぐれ 酔っちゃったのと腕につかまる
(揚巻)ビー玉の種は鴇色きまぐれに愛してるって告げて眠ろう
023:魂(55〜79)
(梅田啓子)ひと夜さをさ迷ひてゐし魂がカップを置きてわれに入りくる
(天鈿女聖)魂が抜け出たような顔をした人であふれる終電の中
(秋月あまね)死せる者への憧憬よ魂はたとえばFOMAカードのように
(駒沢直)あくる朝 悪魔に売った魂が裂ける音にも似た雨の音
(穂ノ木芽央)まづかたちありき白磁の花差しの花の代はりのやうに魂
024:相撲(57〜82)
(藻上旅人)閉ざされたドアの向こうの紙相撲風に飛ばされ見えなくなりぬ
(理阿弥)お相撲の香りをあとに亀戸で降車する日々こともなく晴れ
野州) 窓越しに相撲中継聞こえきてやよひゆふべの菊坂くだる
(中村成志) のったりと雲の相撲を眺めいる草に背中の汗吸わせつつ
(ふみまろ)指相撲に負けて気づけりいつのまにわれより広き吾子のてのひら
(高松紗都子)やわらかな拒絶ののちの微笑みにひとり相撲の結末をみる
061:奴(1〜25)
(アンタレス)空高く操られつつ遊び居る奴凧にもペーソス有りや
(髭彦) 万葉にクソ鮒食めると歌はれし女奴いかに生きて死にけむ
(翔子)見上げればカイトに押され奴凧への字の口元凛々しさ哀し
(間宮彩音) 教室に行けばいつもの奴がいていつもの席でため息をつく
064:ふたご(1〜25)
(みずき)ふたご座も二人静も春愁の匂ひを放つふたひらの夢
(リンダ) 検診のエコーに写る子宮腔ふたごのように筋腫いすわる
066:雛(1〜25)
(みずき)雛流す後は無聊の部屋ならむ問ひて沙汰なき三人官女
071:褪(1〜26)
(夏実麦太朗)大切な言葉ばかりが褪せてゆきそれはかなしみまたはおかしみ
(tafots) 思い入れは確かにあったブラウスも色褪せていて躊躇なく捨つ
(みずき)褪せてゆく春の心よ散り急ぐ櫻ひとひら舞ひて真白き
(庭鳥)色褪せるよりも輝き増して行き持て余してる過去の栄冠
(シホ)歳月の 流れとともに 色褪せて セピアの海で 漂う記憶
(リンダ)褪せるとは忘れることと違うらしまだら模様の心もてあます
(船坂圭之介)回転を止めたる観覧車のうへに赤の褪せたるごとき「月の出」
(間宮彩音)いつまでも褪せることない思い出は今も心の引き出しの中