題詠100首選歌集(その19)

 このところ寒暖の差が激しい。昨日と今日の東京の最高気温は15度違うとか。明日はまた冷え込むらしい。三寒四温どころの話ではなく、単なるお天気というより、「地球」のことが気になって来る。      

選歌集・その19


001.春(213〜237)
(ひいらぎ)ときめいた気持ち抱えて桜咲くいつもと違う春の訪れ
佐藤紀子) 常よりもひと月早く春の来て二月の桜はにかみて咲く
(末松)好きだった歌手が消えてたことにさえ気づかないまま春をむかえる
(武藤里佳子) 何もかもあの日のままの春がきて 繋いでた手はさまよっている
(湯山昌樹) 富士山に降りかつ溶ける雪の底 小富士過ぎたらもう春近し
002:暇(202〜229) 
(ふうせん)ああ四月。こころの隙間から暇を覗き見してる土曜の夕べ
眞露)窓際で暇な時間を持て余し時に追われし日々懐かしむ
005:乗(181〜205)
(末松)使うはずなかった乗車券でした約束なんて最初からない
(田中まこ) 唇に残ったあなたのさよならを乗り換え駅で確かめている
(David Lam) 春は馬車に乗つては来ずに手の痺れ・首の痛みが和らぎ四月 
(美木)反対の電車に飛び乗り後悔し戻る時間も入れ家を出る
(遥遥) 乗換えを間違えたのは二千年前のことだとあなたが笑う
(星和佐方)ホームまで見送るための乗車券さびしき春の秘色(ひそく)を手にす
眞露)乗る人のない助手席の窓を開け流るる髪の残像を追う
006:サイン(170〜199)
(星川郁乃)ただ日々が忘れることを許すでしょうサインコサインあの子の噂
(ラヴェンダの風) 「謹呈」とサインの残る歌集買ふ吾に縁の一冊として
013:元気(124〜128)
(揚巻)元気かと問えば元気に元気だと答える元気レベルの元気
(あおり)「君といれば元気になれる」といわれたら二度と泣けないあなたの前で
佐藤紀子) 娘へのメールにいつも書き添へる「元気でね」とは挨拶ならず
(フワコ) 本当に聞きたいことは書けなくて「元気ですか?」を絵文字で飾る
016:館(108〜132)

(村木美月)柔らかな日差しを浴びて図書館の背もたれ椅子と戯れる午後
(音波)図書館にそれぞれ夢を持ち込んで閉架の奥に眠る八月
佐藤紀子)図書館にMANGAの棚が設けられ英訳された漫画が並ぶ
(片秀)図書館の静けさがふと怖くなりペンをばら撒く夏真っ盛り
(南雲流水)鎌倉の文学館の隧道の古いインクのにほいをぬける
025:環(52〜76)
(梅田啓子) 環八のうへに首都高はしる街に子は暮らしゐき独り離れて
(六六鱗)環座して歌詠み交わす直会の央に神在り月夜見の宮
(中村成志) 土枯れし桜はなびら環を描き袋小路の風に舞うのみ
(ひじり純子)おそろいの指環の代わりのストラップ逢えば並べてそれも嬉しい
(揚巻)運命のチャクラはめぐり君と見る金環蝕のゆびわのゆくえ
026:丸(54〜78)
野州) 旅に出る予定はなくて歌誌を読みながら舐めてる丸いのど飴
(中村成志) みぞれ降る街の空地の窪みには丸く動かぬ黒猫ひとつ
(橘 みちよ) 桜咲く岸辺をぬひて丸木舟にこの身横たへながれゆきたし
036:正義(26〜51)
(砂乃) 戦争の終わったあの日ぼんやりと勝田正義うなだれて居り
(行方祐美 )正義との名を持つ家族も友達もわれにはをらずつづく春雨
(斉藤そよ)ただならぬ痛々しさを突き抜けて正義を語るひとの遠さよ
068:怒(1〜26)
(みずき)怒濤なす海を見つめて逸れゆきし運命を思ふこゑ亡き父と
(アンタレス)堪え難き怒りを持ちつ耐え居れば諭すが如く春雷響く
(髭彦) やはやはと薄くなりたるわが髪の怒髪となりて天を衝かざる
(コバライチ*キコ) 阿修羅像怒りのお顔麗しく千年経るもすくと立ちおり