題詠100首選歌集(その21)

また冬が来た。昨夜から今朝にかけて雪。朝起きたら、北向きの屋根などにうっすらと雪が積もっている。東京は41年ぶりの遅い雪タイ記録とか。41年前にはとっくに東京にいたわけだが、こんなに遅く雪が降った記憶は残っていない。記憶というのもいい加減なものだ。今日も寒い一日だった。



     選歌集・その21

009:菜(159〜183)
ひぐらしひなつ) 菜園にあなたをさがす はつなつの遠きカイトを泳がせながら
(羽根弥生)狂騒と狂騒の間(ま)の白き時 水菜噛む音さくさく響く
(イノユキエ) カラオケに中森明菜を選ぶとき昭和の尻尾が生温かい
011:青(138〜162)
(ワンコ山田) くるくるとまわって筒になっていく青焼きされて読めない未来
(末松) 焼かれるがままに焼かれて青魚 目を閉じないでみる夢がある
(豆野ふく) もう少し二人の時間が欲しいのに 沈む夕日に縋る群青
(黒崎聡美)ステンドグラス床に湛えたそのなかの青い光につまさき浸す
017:最近(138〜162)
(村木美月)絵空事ばかり最近増えていく夢想の恋は無限大です
(末松) 最近はあまり気にしてないと書く彼女の手紙の強い筆圧
(月の魚)一夜おきに「最近」の色を塗り重ね 明日の私の髪は何色?
(香-キョウ-)吸収をしているからこそ思い出が色褪せるのだと最近思う
(A.I) 沈黙の cup of tea そういえば最近茶葉を新しくした
眞露)最近の若い者はという言葉口にするたびまた歳を食う
(黒崎聡美) あたたかい牛乳のにおい パチンコに祖父は最近行かなくなった
(七十路ばば独り言)最近は牡蠣フライなど出ないねと夫がぼそり夕食に言う
018:京(105〜130)
(音波)ほんとうに空がないのか知るためにまた鉄橋を渡る東京
(すいこ) 青くても無限の夢を乗せられた二度と乗れない上京列車
ウクレレ)京橋はええとこだっせと歌ったら続きはみんなでうたう大阪
(末松) ミニチュアの南京錠つき日記帳 ひみつがあるから少女はそだつ
(村木美月)桜舞う京の河原の思い出を封印したき新しい春
(五十嵐きよみ)どうしても東京特許ときゃ局としか言えなくてまた笑われる
027:そわそわ(54〜78)
(佐倉さき) そわそわと君の面影探しては秘密のあだ名思い出してる
(木下奏) そわそわとしているあなた座らせて並べるチキンのトマト煮の皿
(詩月めぐ)そわそわと君が来るのを待っていた兼六坂の桜ひらひら
(青野ことり)心持ち定まらなくてそわそわと同じページを何度もなぞる
028:陰(54〜78)
(梅田啓子) 花陰(はなかげ)のはぐれ蛙と目が合ひぬ初夏の陽射しにわれもひとりぞ
(佐倉さき)もう泣いていいよ 陰ではたくさんの努力してきたこと知っている
(冥亭) かすみなす花見の頃は気鬱にて日陰木蔭にたんぽぽを踏む
073:弁(1〜25)
(船坂圭之介)弁舌の訥なればなほ聞き難く耳を片寄す古きテレヴィ
(間宮彩音)からっぽの弁当箱をつつきつつ明日の不安を忘れようとす
074:あとがき(1〜26)
松木秀)春二月第二歌集のあとがきを屈託ありて書きなずむ夜
(映子) あとがき の ような私のこの頃も   母親であり 女房であり
(みずき)あとがきの行間触るる風五月儚き恋をそよと閉ぢたる
(シホ) あとがきを 読んでから買う 文庫本 積んどくだけで 増えゆくばかり
(船坂圭之介)生ける世に未練これありあとがきのごとく附けたし”勝手放題”
075:微(1〜25)
(中村あけ海)顕微鏡調整するのが下手なふりして彼のことこっそり見てた
(シホ) あの日から とまどいながら 意識して 微妙な距離を はかりかねてる
079:第(1〜25)
(tafots) フィクションに直されたるを知るばかり 第二次世界大戦遠く
(船坂圭之介)唐突に影は消えたり呪詛のごとくわが立つ丘は次第に曇る