題詠100首選歌集(その22)

         選歌集・その22


004:疑(195〜219)
ひぐらしひなつ)一片の疑惑溶かしてまろやかの極みを垂れよクラムチャウダー
(ふうせん) 疑問などどうでもよいときょうもまた偏西風は蛇行するのみ
(小高まり)晴れたならあらゆる帽子をかけましょう 疑問符はもうさかさまにして
008:南北(161〜185)
(小高まり)水玉のリボンまっすぐむすんだら南北の空渡れ 春分
022:カレンダー(76〜101)
(酒井景二朗) 五年間貼りつ放しのカレンダー あの約束も果たせぬままに
(中村梨々)春の陽は長く伸びてて蝶々が折り返してる野のカレンダー
029:利用(56〜80)
(虫武一俊)都合よく有効利用できるなどと思うな 耳に風の入り来る
(天野ねい)冷え切った耳や手足をあたためるためにあなたを利用している
030:秤(51〜76)
(綾瀬美沙緒)いつだって あたしのほうが ちょっとだけ 浮いてるみたい 君の天秤
野州谷中銀座のメンチ肴に飲む酒の恋と食欲秤にかけて
(木下奏)天秤にかけるつもりがシーソーで上がり下がりを繰り返す恋
(橘 みちよ)きみのためやく焼き菓子よ秤には砂糖小麦粉歌声まぜて
076:スーパー(1〜26)
松木秀)スーパーマンを変身させぬ方針か電話ボックスつぎつぎ消えて
(シホ)スーパーの タイムバーゲン 間に合うか 仕事帰りに 満月ぽかり
(間宮彩音) スーパーのカゴに次々入れられるタイムセールのさんま三匹
077:対(1〜25)
(夏実麦太朗)集合の多対多対応語るとき数学教師はややも華やぐ
(tafots)「誰も彼も対なるべし」の妄想に牙むく夜の肌の冷たさ
(みずき)谷崎の墓石は「寂」の一(ひと)もんじ 対峙する樹の櫻降りつむ
(庭鳥) 対岸の火事を眺める心地して上司の喧嘩笑ってみてる
(梅田啓子)無意識の顔をさらして皿あらふ対面式のキッチンなれば
078:指紋(1〜25)
(夏実麦太朗) 不自然に消えた指紋をいぶかしむ刑事コロンボの右目ひだりめ
(tafots)妹の鏡面加工のケータイに指紋でウサギ描いてゆく夜
(間宮彩音)電源を切った画面に映るのは指紋の跡とうつろな顔と
081:シェフ(1〜25)
(夏実麦太朗) いつからかシェフと呼ばれているひとの変わらぬ味のクリームコロッケ
082:弾(1〜25)
(みずき) 悔いてなほ外せぬ指輪あはあはとゆるぶ晩夏を激しく弾きぬ
(翔子)一人旅オーシャンビューの窓からは夕陽と波のうねる連弾