題詠100首選歌集(その24)

 晴天続きのゴールデンウィークだが、出掛けもせずに漫然と過ごしている。あるいは年齢のせいで、ものごとに億劫になっているのだろうか。そうは思いたくないのだが・・・。


    選歌集・その24

003:公園(203〜227)
(武藤里伽子)君と手を初めて繋いだ公園のブランコがただ風に揺れてる
(星和佐方)カップルが回転寿司のごとならぶ港の見える丘公園
(野坂らいち)待ち合わせしてない雨の公園で「会いたかった」と声にしてみる
眞露) いつか来た公園にひとり佇みて寒風が身に染みる夕暮れ
(草間 環)公園の片隅にあるごみ箱に今朝の別れを投げ棄てた宵
010:かけら(154〜180)
(ふうせん)かけらなら愛せたのかもしれません。その赤いバラわざと千切った。
(sh)春色のかけらあつめて金平糖甘くとけてく小さな宇宙
(小高まり)白亜紀のかけら集めて雨が降る ノック止まない扉の前で
(ケンイチ)太陽のかけらを集めた水平線終わらぬ午後に寝息が漏れる
(あひる) 曇天に一刻射せる春の陽の残せしかけら木蓮の白
(湯山昌樹)割れ落ちた鏡のかけらを拾うごと 去りし人の影探し続ける
024:相撲(83〜107)
(酒井景二朗) 冷笑家たちに紛れて今日もまた獨り相撲の一日だつた
025:環(77〜103)
(高松紗都子)環状に閉じた心をひらく鍵なくしたままに今を生きてる
(sh)くるくると回るひとつの環(わ)のようないのちは数えられない単位
(さむえる) ひび割れのさらに割れたる妻の手に似合う指環はどこかにないか
(五十嵐きよみ) 哀しみが空の青さにとけるまでつぶやいてみる 水の循環
026:丸(79〜103)
(高松紗都子) ぎこちなく我が子を抱けばたよりなきこころの隅に丸(まろ)き花咲く
(南野耕平) ほっとくと丸みを帯びてくる過去を抱きしめるのは明日にしよう
(ふみまろ)半透明に透けるブラウスはつなつの鼓動をきみは丸くおしだす
(さむえる)この黒く丸い影です肺癌のいともたやすき医師の宣告
032:苦(55〜81)
(鮎美) 鈴蘭の花の可憐であるものかかくまで苦き早春の酒
(詩月めぐ)ほろ苦い珈琲飲めば君といた冬の記憶が蘇ってくる
(新井蜜) 腰痛のきみを迎へにゆく坂の右手の藪に生ふる苦艾
(新田瑛) 人生の苦さに喩えられるべきエスプレッソをちびちびと飲む
033:みかん(52〜76) 
(斉藤そよ)また同じ場面になれば 待ってるね みかんをいれる籠を編みつつ
(藻上旅人)冷凍のみかん片手に乗りこめば静かに始まり往くひとり旅
(揚巻)何もない田舎だけれどばあちゃんの手編み帽子とおみかんひとつ
(南葦太) 給食のみかん果汁に染まりゆくカッターシャツの白かった夢
(武藤里伽子) 前世は君がみかんで僕は猫 こたつみたいな愛を探そう
(橘 みちよ) さとうきび畑の彼方みかん色の朝日のぼりき返還の夏
(高松紗都子)秋冷をたずさえてきた君の手に香るみかんの愛しきおもさ
045:群(26〜50)
(コバライチ*キコ)群鷄の眼は我を睨みつつ微動だにせず若冲の軸
(じゅじゅ。) オリオン座流星群をキミと観た浜辺を今日はひとりで歩く
(はこべ) 取り壊す道路予定地詰草は匂うが如く白く群れおり
(六六鱗) 群れ集う若者のシャツとりどりの裾を揺らして春は過ぎゆく
(周凍) 群れきたる椋鳥の声におどろきぬふるへる秋のゆふぐれの木々
(畠山拓郎) 群れること嫌がりながら一人ではなにもできない明日は晴れろ
(梅田啓子) いつの日か火群(ほむら)に焼かるることあらむ蟻つらなりて交尾しつつゆく
(理阿弥)群童のさわがしければ夏さなか熟れたメロンはいちど冷やして
086:水たまり(1〜25)
(みずき)紫陽花の闇に浮かびて水たまり昨日の雨に青く濡れゐし
(髭彦) その辺の水たまりにもアメンボの泳ぎをりけり雨の上がれば
(リンダ)舗装され水たまりなきアスファルトの隙間をぬってタンポポが咲く
陸王)旅立った日の水たまりガソリンに浮かんだ虹がきらきらひかる
(梅田啓子)青空を映す小さき水たまり踏めば足から溶けてゆくべし
090:恐怖(1〜25)
(tafots) やぶ歯科の待合室で読んでいた『恐怖新聞』 オチを見ぬまま
(みずき)オペすれど癒えぬ恐怖に曝されて身ほとり深く春を探しぬ
(髭彦)寸鉄を帯びざる民を恐怖にて戦慄させよと岩倉言ひき
(リンダ) 穏やかなうねりの波にさらわれて沈む恐怖を快感にする