題詠100首選歌集(その25)

選歌集・その25


001:春(238〜265)
(ちょろ玉)好きな子が出来てもそれを青春と呼ばないほどに年を重ねた
021:狐(103〜128)
(伊倉ほたる)白い指太い指にも同じだけ狐の影絵に潜む煩悩
(ワンコ山田) こぶたぬききつねここぶたループするともだちだってしんじる狐
(すくすく) 「北狐」漢字で書くと違和感があること知った題詠ブログ
(あひる) 亡き祖母に背負われし日の田の畦に炎のごとき狐花見ゆ
(豆野ふく) 光さす街に清かに雨が降る 狐はどこへ嫁に行くのか
027:そわそわ(79〜103)
(酒井景二朗)なあ猫よ庭石菖が咲く迄はそはそはしてもいいんぢやないか
(sh) そわそわとメールの返事を待つ間、宇宙のことを考えてみる
(七十路ばば独り言)宰相の瞳が揺れるそわそわと普天間問題迷路に入りて
028:陰(79〜104)
(高松紗都子)日陰にも育つ花ゆえ愛よりも気ままな風に生かされている
眞露) 陰となり支える人のないままに船頭ばかりの船は沈みぬ
(中村梨々) まなざしの陰を過ぎてく麦藁の少女に引かれやってくる初夏
(ましを) 日陰だけ選んで歩いたつま先にはじめて真紅塗りつけた日に
034:孫(52〜77)
伊藤真也)日だまりのうらぶれ爺を捨ててほれ遊園地じゅう駆け出せよ、孫
(鮎美)蝉時雨 孫の構へるカメラ見てその笑みのまま遺影になりき
(中村成志)孫をもつあてのなき手よ大きなる白菜縦に包丁入れる
035:金(52〜77)
(中村成志)午後四時の欄干に肘あずければ地金あらわに陽に光りおり
(只野ハル)傷付かぬ金の心のそのままに若き詩人は病に逝けり
(橘 みちよ)わが前に後妻(うはなり)打ちせるシテの眼は涙目なりや金泥あやし
041:鉛(28〜53)
(綾瀬美沙緒) 虹色の 色鉛筆で 真っ青な 空に大きく 書いた君の名
(梅田啓子) 鉛筆をつよく握りて父の描く少女の目もとは母に似てゐき
(斉藤そよ)水だけが匂う四月の散策路 鉛筆ひとつ転がしてゆく
(揚巻)はつ恋の注意事項にライン引く淡く波打つ青鉛筆で
(原田 町) 鉛筆や消しゴムつかひ歌作る頃もありしとキーボード打つ
(青野ことり)青だけがいつもちいさい 箱入りの色鉛筆はもう買わないの
042:学者(27〜51) 
(斉藤そよ) らいおんは哲学者だね しまうまに出会わぬように生きたいという
(中村成志)真鶴の魚付林の縁(へり)に立つ老樹学者は帽子押さえつ
087:麗(1〜25)
(tafots) 本日の飲み会で得たこと1つ 淡麗<生>はビールではない
(みずき)麗人はモディリアーニの細き首伏せて五月は鬱とささやく
(伊藤夏人)麗しい君がだまった瞬間の時の流れが一番恐い
(月下  桜)華麗なるマニキュア広告びっしりと並ぶページを食い入って見る
(梅田啓子)麗しのサブリナパンツに街をゆく背すぢを伸ばしお腹へこませ
(龍庵)麗らかな春の陽射しの日曜日隣の家の子は今日も泣く
091:旅(1〜25)
(中村あけ海)湯につかり社員旅行がヨーロッパだった時代の話など聞く
(みずき) トンネルに耳奪はれしのちの雪 旅のはじめの海へ吹雪けり
(梅田啓子)子を紐にひよいつとおぶふ要領にリュック背負ひて旅をつづける