題詠100首選歌集(その26)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>
五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して6年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。
主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


選歌集・その26


002:暇(230〜254)
(祥) ビードロの空にうつした夏季休暇ジャングルジムは宇宙まで伸び
(EXY)休日の 西日差す部屋 烏龍茶 一口飲んで 暇もてあます
(bubbles-goto) 休暇から戻った人はシュレッダーのボタン押さずにしばらく見てた
005:乗(206〜231)
(日向奈央)この先にあなたがいると思うから乗れない湘南新宿ライン
(井関広志)蜂鳥の羽は光の波に乗りかすかな飛沫の音に隠れり
(ろくもじ)乗る予定なかった観覧車の前で君とおんなじことが言いたい
006:サイン(200〜227)
(ezmi) 理由などとうに忘れた君を待つネオンサインは雨に滲んで
(草間 環)小荷物を受け取りサインした後で母の思いが花になり降る
007:決(194〜219)
(氷華) 星の下 決定的にすれ違う 君の横顔 過去に組み込む
(冬鳥)霧雨の春の寒さよこの街をでてゆくことを決めかねていて
(湯山昌樹)決戦は明日(あした)と思い定めたり 四回目なるデートの前に
(祥) 花やかな月に契った約束を越える決意を君に問う夜
016:館(133〜158)
(ふうせん) 卒業の間近にせまる図書館に今もときめく栞一枚
(五十嵐きよみ)チュチュを着た幼い君が今もいる古びた写真館のウインドウ
(フワコ) 図書館の書架からはみ出すことばたち週末の女子高生は明るい
(あひる)戦没の学生描きし祖母像はただ笑みており「無言館」に
(一夜) 図書館で落とすため息 密やかに行間の縁へ染み込んでゆく
043:剥(28〜52)
(わたつみいさな) 正義とか考えているバス停でピンクチラシも剥がせずにいる
(晴流奏)剥き玉子みたいな肌に憧れて頬にすり込む保湿ローション
(黒崎立体)背中から剥がれた羽根に気付かずに少女は角を曲がっていった
(梅田啓子)ポンカンを剥けば果汁のほとばしり高知は娘のふるさとになる
(青野ことり) 丁寧に剥かれた皮を花にする 甘夏柑の匂いの指で
044:ペット(26〜50)
(わたつみいさな)あなたから手紙が届く春さきはペットボトルのお茶ばかり飲む
(行方祐美) ひさかたの真昼のみづを傾けてペットボトルは光となりぬ
(梅田啓子) 赤き水入れれば赤きペットボトルそのひそやかな淋しさを置く
野州)先に死ぬこともペットの役割と知りつつ泣いて春を数ふる
046:じゃんけん(28〜52)
(行方祐美) じやんけんの苦手な右手で書いてゐる黄砂の重さやわれの荒さを
(如月綾) 勝ち負けを決めたくなくて後出しのじゃんけんでさえあいこを択ぶ
(わたつみいさな) こいびとになる直前を見過ごして右と左のひとりじゃんけん
(鳥羽省三) じゃんけんで負けた童女を死者役にいつまで続く葬儀屋ごっこ
(中村成志)じゃんけんの相手は誰ぞ天空に向かいて辛夷いっせいに咲く
047:蒸(26〜51)
(はこべ)青葉する山の駅から見下ろせば蒸気機関車煙ひきおり
(龍庵) うなだれる僕に駄目押しするようにやかんも突如蒸気をあげる
(空音)ほしぶどうたくさん入れた蒸しパンがだいすきだったの母さんの味
(理阿弥) 母がその楽しい口を閉じるとき。ドリップコーヒー蒸らす十秒
野州)蒸けてゆく温泉饅頭見据えつつ敷石に降る雨に濡れたり
(鳥羽省三)岡蒸気と洒落る人などまだ居りて市電が走る泉州
(中村成志) 中骨にわずかににじむ血の色よ蒸甘鯛の身は姉に似て
094:底(1〜25)
(夏実麦太朗)飲み終えて穴があるゆえ見てしまう缶コーヒーの缶のおく底
(tafots)水底に輝いていた丸石の石くれとなる真夏の終わり
(伊藤夏人)底なしの沼に落ちたらもがかずにそのまま溺れてみようと思う
(船坂圭之介) 休息のゆるゆる消ゆる夜の底の湯槽に自我のまま身を浸す
(黒崎立体) フラスコの底にいるような錯覚 つややかすぎて真冬のまひる
(梅田啓子) ためらひのごとき間をおき潰れゆくわが靴底の青き梅の実