題詠100首選歌集(その27)

         選歌集・その27

008:南北(186〜212)
(冬鳥)やさしくて冷たいみたい南北にのびる盆地の夜を覆う空
(みち。)南北に分かれた国を思いつつあなたの国境線へ踏み込む
(井関広志) 子(ね)と午(うま)の言葉たのしい南北の139度の子午線に住む
013:元気(149〜173)
眞露)元気ならそれでいいのと云うきみに募る想いと抱けぬ切なさ
(ぱかり)メールには元気だからと書いておくそれ以上にはなれないように
(あひる) 混み合える電車に席を譲りいて元気装う五十路となりぬ
(ちょろ玉)死ねるほど落ち込んでても「元気よ」と母ならきっと答えるだろう
(山口朔子)言いたいことから言えないこと引いて残った「元気?」だけメールする
015:ガール(140〜166)
(すくすく) スティーブン・セガールみたいな少女来て沈黙だらけで終わったコンパ
(あひる) ガールとふ言葉嫌いてことさらに青き衣服をまといし日のあり
(天国ななお)スカートでガードレールを飛び越えるガールらしさの裾を広げて
(あおり) とめどないガールズトーク珈琲に溶けてく午後のスターバックス
030:秤(77〜101)
(B子)天秤座今日のラッキーカラーゆえ玉虫色の服を着てみる
(高松紗都子)目盛なき秤のように大らかに吾子をささえる母でありたい
(佐倉さき)天秤の下がった方が大切なものと思えずにいたあの頃
(あひる)天秤に掛かるるごとし犬たちはわれの左右の膝にもたれり
(五十嵐きよみ)材料をいちいち秤に載せないと慣れないお菓子づくりは不安
036:正義(52〜79)
(原田 町)正義派の弁護士といふレッテルを貼られたきかと子に問ふてみる
(ふうせん) 反意語の意味を辿ればなんとなく分かったような気がする「正義」
(高松紗都子)ふりかざす正義の果ての徒花の如くひろがるナガミヒナゲシ
037:奥(51〜75)
(揚巻) 親の手の届かぬ場所へのぼりゆく奥羽本線18の春
(原田 町)高野山奥の院には白蟻の供養塚まで建ちてをるらし
(風とくらげ) 時を止めた君の瞼の奥の庭だれもいなくてただ風の色
(青野ことり) 耳の奥 知らないはずの声がしてあの日のことを責められている
(虫武一俊)深淵の奥の椅子からほほ笑みを向けられているように寂しい
(音波)ゆっくりと寝るのが怖いその奥は安らぎだって知っているから
038:空耳(51〜75)
(原田 町)空耳か思へるほどにホトトギス八幡宮の森より聴こゆ
(橘 みちよ)湖岸(うみぎし)のえごの咲く下(もと)空耳かわが歌声に和する楽あり
(ましを)もうずっと忘れたままのひとの名が空耳として聞こえた話
048:来世(26〜51)
(はこべ) 来世をば少しだけでも覗くことができるのならば何をみますか
(行方祐美)来世には樟がよしはなびらの多い桜は疲れてしまふ
(梅田啓子)来世にはふうせんかづらに生まれたし風に吹かれてひと世に畢(をは)る
(中村成志) ひとつひとつは来世に似たり白めきて湯にほどけゆく鮭のはららご
049:袋(26〜52)
(龍庵)カンガルーの袋の中に居るようにポケットに手を包ませ歩く
(じゅじゅ。)愉しみも悲しみもありだから恋 布袋葵(ほていあおい)が風に揺れてる
(空音)あの本屋区画整理でなくなって池袋はもう見知らぬ街だ
(梅田啓子) 人間は有袋類と思ふまで赤子まるごとスリングにくるむ
(綾瀬美沙緒)踏みこめば 出口は無いと 知りながら 袋小路へ 迷い込む恋
(鳥羽省三) 有袋類スーパー主婦と煽てられ一澤帆布の頭陀袋買ふ
050:虹(26〜50)
(コバライチ*キコ) 明け方の虹を魂渡るとふ幼も逝きしかスキップをして
(龍庵) 月光は虹を見せてはくれぬから僕は静かに色をなくせり
(空音)美しいメロディーだから大切に丁寧に弾く「虹の彼方に」
(綾瀬美沙緒) 眼を閉じて 君の鼓動を 全身に 受ければ見える 真夜中の虹
(揚巻)二の腕に疑惑の種を探すとき横長になる君の虹彩