題詠100首選歌集(その28)

          選歌集・その28

009:菜(184〜208)
今泉洋子)涅槃図の大根釈迦は囲まれぬ高値の続く野菜の弟子に
(冬鳥)ふるふるとふるえるでんわ菜のはなのはなびらのさきにふくはるのかぜ
(湯山昌樹)水かけ菜の季節は過ぎて 御殿場の子はその花を束ねて遊ぶ
(生田亜々子) 菜の花の一輪の中一本のおしべとなって月を見ている
018:京(131〜155)
(佐藤紀子) 「松茸は実家の山で採れます」と京都育ちがさらりと話す
(すくすく)「京」の字に京都タワーは似ていると見上げて君を待てば夕焼け
(ショージサキ)桜降る夜の学校 着流しの教師が酒と京菓子喰らう
022:カレンダー(102〜126)
(五十嵐きよみ)てのひらを押し当ててみるカレンダーはがした後の壁の白さに
(ふうせん) カレンダーめくる窓べで書きかけの便せんが舞い5月に入る
(生田亜々子)その時に止めたまんまのカレンダー胸の奥には何枚も有る
(山口朔子)過ぎた日は重なってゆき日めくりのカレンダーにはなれない僕ら
029:利用(81〜105)
(高松紗都子)図書館の利用者まばらになる夜のあかりにとけた言葉がにじむ
(すくすく) ビル風が吹き上がるのを利用して空へ翔びたくなる昼休み
051:番号(26〜50)
(行方祐美)番号をいくつも持つて生きてゐる右手ににぎるこの切符にも
(梅田啓子) 「番号をお確かめの上」幾度もかからないこと確かめてゐる
(理阿弥) …ゲンザイハツカワレテ…ない番号の放つ手触りきしきしとして
(如月綾)メモリーは消した けれども指先がまだ覚えてる携帯番号
(綾瀬 美沙緒)アドレスも 履歴も君の 番号も 消し去ってなお 消せない記憶
088:マニキュア(1〜26)
(tafots) マニキュアを乾かすために起きている 電話を待っているのではなく
(みずき)さよならと握手した日の寂しさを除光してゐる夜のマニキュア
(菅野さやか) マニキュアがとれたら夜は終わります朝には糠床かき回すので
(リンダ)マニキュアが乾く合間の拘束に女であるとしみじみ思う
(船坂圭之介) 緋のいろに染まるこころや哀別の夜は更けゆくマニキュアの艶
(行方祐美) マニキュアの小さな壜がまたも増え五月の緑に眩みてをりぬ
089:泡(1〜25)
(tafots) やきすぎた肌の水泡つぶしつつ陽炎のなか歩く八月
(髭彦)食ふもよし吹かせるもよしなべて世は泡うたかたに満ちてしあれば
092:烈(1〜25)
(リンダ)強烈なキャラと言われて知らぬ顔うた詠む時は乙女がのぞく
(梅田啓子)綿綿とながれゆくのか母からの烈しきものは我に娘に
093:全部(1〜26)
(夏実麦太朗) さもしきはわればかりかと思いつつ缶コーヒーを全部飲みほす
(髭彦)寅さんの「全部持ってけ!ドロボー!」のせりふ浮かびぬバナナ安きに
(リンダ) 小出しこそ愛が冷めない秘訣だと全部さらけてわかる結末
(龍庵) 子は父の全部が嫌い大嫌いとあぐらの上に乗って言いたり
095:黒(1〜25)
(tafots) 吾が胸にうつむく人の黒髪のさらさら降らむ 月が明るい
(中村あけ海) 輪転機回し疲れて真っ黒な両手で開けるカロリーメイト
(みずき)心奥(しんあう)へ秘めし苦悩に細りゆく黒髪 柘植の小櫛さしたる
(月下 桜)黒髪の人々交差する国はなんだかとても無防備になる
陸王) 黒猫の眼に黒猫は虹色に見えると猫が教えてくれた
(梅田啓子)花芯よりそりかへりつつ蕊の伸び月下美人は黒き香はなつ
(周凍) 海鵜かや黄の嘴の空冴へて黒き羽振りを送る夕暮れ