題詠100首選歌集(その29)

 最終題もやっと25首に届いた。今までがどうだったのか調べてみたら、題100が25首に届いたのが、平成18年5月1日、19年7月9日、20年が6月11日、去年が5月4日になっている。去年からスタートが1月早くなったので、それを計算に入れれば、19年を除き例年よりかなり遅いペースだ。因みに去年の5月28日は、「選歌集その36」となっており、去年よりは大分遅れているようだ。


選歌集・その29


004:疑(220〜244)
(ふみ吉) 疑陽性内に秘めたる子らの背に紫陽花溢れ授業参観
014:接(146〜170)
(あひる) さみどりの若葉の先に積む雪と見まがう淡き接骨木(にわとこ)の花
(ちょろ玉) 本命の面接だから100%の自分を出して嘘つきになる
(湯山昌樹) 十五歳の冬面接の準備して彼らは少し大人になりゆく
031:SF(77〜101)
(高松紗都子)SFの入口として幾たびも我をいざなう夏への扉
039:怠(53〜77)
(新田瑛)頑強な言葉の壁に閉ざされて怠惰な夢が溜まる日常
(ふうせん)気怠さを美に変えてなおやわらかく逆光線に揺れる春です
(sei)とめどなき倦怠感を板チョコの一気喰いにて紛らす夜更け
040:レンズ(53〜77)
(原田 町) 瓶底のレンズはいつも鼻の上これが無ければ世界はおぼろ
055:アメリカ(26〜50)
(黒崎立体)明け方の夢の余韻を薄めてくアメリカンコーヒーとトースト
(じゅじゅ。) 手をつなぎ初めて歩く満開のアメリカンディエゴ咲く君の街
(行方祐美) 花冷えの朝に淹れゐつアメリカン桜のやうなうすさとなりて
(理阿弥)卒園に赤いハーレー贈られて手の中ずしり僕のアメリ
(畠山拓郎) アメリカはいつも黒船 突然に会計基準もISOも
(揚巻) 三河屋の朽ちた琺瑯看板にCocaColaの赤ここもアメリ
(綾瀬美沙緒)変わりばえしない日々 でもそこそこに 幸せ アメリカンチェリー買う
096:交差(1〜25)
(中村あけ海)リクルートスーツの群が交差点にたまってなかなか流れてこない
(みずき) 借りてきし傘窄めつつ交差点春の驟雨に弾けるみどり
(龍庵) どうしても一歩遅れてしまうから交差点では空を見ている
(行方祐美) いつよりか心の交差をなくしたり雨とあぢさゐそれより淡く
097:換(1〜25)
陸王)来年はふたりで来ると言ったのに今年もひとり花換えの道
(龍庵) 消防車遠くなりゆき換気扇まわる音だけ微かに聞こゆ
098:腕(1〜25) 
(シホ)満開の 桜の下で 腕まくら うつらうつらと 春は過ぎ行く
(はこべ) 腕相撲こたつで組んで遊んだ日外は粉雪舞いし思い出
100:福(1〜25)
(みずき)福相と自負する人の寂しさをふと感じをり 太宰忌の庭
(リンダ)福耳を誉めてさわって助手席のサイドミラーの木々が揺れおり
(梅田啓子) 晩年は始まりゐるやたゆたひて歌にあそべる至福の時間
(龍庵)福耳を唯一無二の生きていく拠り所とし無頼派気取る
(子帆)うつむいて鼻すすりたる君もまた福と不幸を嗅ぎ分けている