題詠100首選歌集(その31)

選歌集・その31


003:公園(228〜252)
(成瀬悠太)大げさな未来を想い公園のベンチで飲んだコーンポタージュ
(さかいたつろう) 僕たちのこどもではない子が走る公園だから許される嘘
(ふみ吉)街灯の切り取る淵でこっそりと夢掘り返す夜の公園
(新垣愛里) 君からの返答を待つ公園で 鼓動と鳩のうなずきが合う
(山口朔子)母と子は夕陽に沈む公園で影絵になっても母と子である
(こすぎ)昼休み白藍色(あらあいいろ)の公園をブランコ揺らす風も見えない
鏡月)公園で乳房をそっとつつむ手を夜風にゆれて撫でる黒髪
(柴田匡志) 公園でボール蹴りつつ日暮れ時パステルカラーの空が広がる
010:かけら(181〜205)
(しろうずいずみ)かなしみのかけらをひとつつまんでは隠し味にと加えています
(井関広志) 耳朶(じだ)ほどの小さき夢のかけら追い 底なし沼の底をたどれり
(F-Loch)ことごとくわたしが砕けちっぽけなかけらとなる日の愉悦をおもう
(秋篠) 瓶詰めの きみのかけらを 砕いては 忘れぬように 深く吸い込む
024:相撲(108〜132)
(中村梨々)しあわせを輪にするように母の眼がやわらかくなる相撲のはなし
(藤野唯)よこしまな気持ちも全部打ち明けよう ひとり相撲はもう終えたんだ
(村木美月)君に似た後ろ姿をみるたびに独り相撲のあの日に負ける
(伊倉ほたる)留守電にもならないエリアひとり相撲もさせてくれない液晶睨む
(黒崎聡美) 大相撲中継の音がもれてくる小さくなった祖父の部屋から
032:苦(82〜106)
(中村梨々)また雨が降るらしいねときみが言う ぼくが見上げた苦い青空
(豆野ふく)噛み潰す前に小さな苦虫を摘み出しては流しに捨てる
(sei) 苦虫を噛み砕いては嚥み下す日々 ポツポツとピリオドを打つ
(チッピッピ)夏の陽にしおれる朝顔目もくれずどこまで伸びる苦瓜の蔓
(黒崎聡美)ぜんまいの苦味は口にひらかれて家族の顔が集まる夕餉
(ワンコ山田)つないだ手つなげない夢寝苦しい夜の過敏な細胞になる
041:鉛(54〜79)
(秋月あまね) 削っても削っても折れる鉛筆に投げた理由を問いかけてみる
(鮎美) 実習に鉛を溶かす少年の真白きシャツに汗にじみをり
(橘 みちよ)エックス線より鉛の重き防護服まとひ守りし宮とふかなし
(すいこ) お下がりの色鉛筆の減り具合わたしが赤を嫌いな理由
042:学者(52〜76)
(鳥羽省三) 「鳥羽さんは学者だから」と言う時の<学者>に籠もる皮肉蔑み
(新田瑛)不毛なる会議帰りの道端に物理学者の落とした林檎
(蝉マル) 午後からは女性の考古学者混じり土の起伏も華やぐごとし
045:群(52〜76)
(鮎美) 声変はりせし子せざる子もろともに『平家物語』群読す
(水絵)曼珠沙華群れなし燃える畦道を  若き遍路の鈴鳴らしゆく
(新田瑛)非可換群の演算された二元にて入れ替われずに繋がっている
(酒井景二朗) 車窗から麥の群舞を眺めつつ忘れ去られた港へ向かふ
056:枯(26〜50)
(空音)(枯らす人)そんなレッテル付けられた吾がベランダの冬越えビオラ
(畠山拓郎)木枯らしに吹かれながらの片想いカラオケで歌う小泉今日子
(綾瀬美沙緒) くちづけを下さい。独り眠る夜 あなた無しでも 枯れないように
(ふうせん)一篇の詩に会いたくてペンを置きこだわる風と枯れ葉の形
(青野ことり) 胃もたれのような思いをもてあましコンチクショウと枯れ枝を踏む
057:台所(26〜50)
(砂乃) 可愛らしい鍋と食器は並べども台所には鬼が住んでる
(行方祐美)いつの日もまづは台所に置かれをり受けし手紙も差し出すふみも
(綾瀬美沙緒)電話口 もうオレ駄目だと 言う吾子に 忍耐だとか 説く台所
野州)母親がうづくまりつつ泣くところ台所には飯櫃ありし
(晴流奏)ゆっくりと歳を重ねる台所丸い背中でたけのこを煮る
058:脳(26〜50)
(梅田啓子)乾きゆく白子の脳を想ひをり人の名前の出で来ぬ夜に