題詠100首選歌集(その33)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して6年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


      選歌集・その33


007:決(220〜244)
(野坂らいち) 恋人になるって決めたのはあたし一人称の恋はむなしい
(日向奈央)二度と会わないと決めてもアドレスは消せないままで春が過ぎます
021:狐(129〜155)
(一夜)「あの狸!」罵る言葉吐く時は 我の心に女狐棲くう
(黒崎聡美)おびえとは小さくなってゆくものか樹木を照らす狐の嫁入り
(A.I) 新しいまくらカバーに包まれて化けそこなった狐と眠る
034:孫(78〜102)
(高松紗都子)海はるか生まれたものの子孫なる我が身ざぶりと揺らすバスタブ
(ましを)じいちゃんも好きなくせして孫に付き合うふりで買うソフトクリーム
(sei) 子でもいい孫でもいいのふわふわと甘い香りのものを抱きたい
(豆野ふく) ぺたんこのお腹の底に子孫たちを秘める乙女ら五月を駆ける
(中村梨々)揺れている白い小さな花がある 孫の笑顔が風になってる
(五十嵐きよみ) 孫というほどよい近さの設定がもっともらしいルパン三世
(佐藤 紀子)二本目の乳歯ぐらぐら動きだし孫は巻きずしを食べあぐねをり
(あひる)平日の午後始まれる歌会に「孫」詠む歌のことさら多し
035:金(78〜104)
(冥亭) 金雀枝に抱かるる耶蘇に焦がれつつ逝きし波郷を妬めり邦雄
(高松紗都子) 金色に滴るひかりにとかされて思い出となる蓮華メレンゲ
(五十嵐きよみ) 運ばれてくる香を頼りに夕まぐれ金木犀をさがして歩く
(酒井景二朗) 金文字の「福」がさかさに貼られてゐる店で飮み干す天地玄黄
(佐藤 紀子)金の鞍に乗りていずこに行きしやら 王子の行方その後を聞かず
046:じゃんけん(53〜78)
(秋月あまね)ずるをする気持ちはなくてじゃんけんのテンポに乗れないことがかなしい
(原田 町)すかんぽの茎を噛みつつじゃんけんぽん負ければ鬼よ土手道駆けろ
(鮎美)戯れのじやんけん君の手のひらの厚きを指の太きを知りぬ
(水絵)ただ一つ残りし菓子をじゃんけんす 声の弾みて五月雨の午後
(飯田和馬)じゃんけんでチョキを出すとき薬指中指立てるおまえが憎い
(天鈿女聖)「頑張れ」の基準がどこかわからずにじゃんけんだけは勝てないでいる
047:蒸(52〜76)
(新井蜜) 火にかけた蒸し器の中の唐芋の火傷しさうなきみが乳ふさ
眞露) なたね梅雨ごまだれ纏う蒸し餃子食せば涼し午後の晩酌
(橘 みちよ)夜明け前ペルシャの乙女が摘みしとふ薔薇を蒸留し肌にかをらす
(水絵) そこ此処に地獄吹き出し草枯れて 笊にて芋蒸す鉄輪の日々
(すくすく) 蒸し暑い夜は無理して眠らずに青いコアラの話をしよう
佐藤紀子)赤飯の蒸かしあがりて湯気白し 今日は双子が三歳になる
061:奴(26〜50)
(行方祐美)奴袴は重たかるらむ古のはなも光も舞ひつぐ季を
(あかり) そんな奴だったね あいつ 澄んだ眼で斜に見つめて 独り気取って
(中村成志)海沿いの公民館の天井に浮く奴凧 紅は黒ずむ
野州)饐えてゆく奴豆腐のさみしさの間遠くなりし友のいくたり
(鮎美)たしかめてみたいことなどない真昼奴豆腐は青磁の鉢に
062:ネクタイ(26〜50)
(間宮彩音) 瞳からそらした先のネクタイの結び目ばかり見つめてしまう
(コバライチ*キコ) 自慢気に蝶ネクタイの一年生赤き頬して校門くぐる
(龍庵)ネクタイの結び目かたく締めるほど眉間の幅は狭まっていく
(ひじり純子) ネクタイを鏡に向かい結んでる息子の顔は幼いままで
(青野ことり)ネクタイを締める仕草も板につき研修期間もそろそろ終わる
佐藤紀子) 退職し出番の減りしネクタイがクローゼットの闇に休めり
063:仏(26〜51)
(コバライチ*キコ)仏蘭西の空は薄鈍(うすにび)プラタナスの落ち葉映して冬を迎えん
(空音) あんなにも別れで泣いた葬式でのど仏の骨冷静に見る
(ふうせん) あざやかな色に咲いてもその命 夜には閉じて去る仏桑花
野州)揺れながら象の背中でゆく路の仏像は横臥せにおはしぬ
佐藤紀子) 両親と姉と従姉と親友と 仏壇に置く写真の増える
065:骨(26〜50)
(梅田啓子) 肉骨粉、にくこつぷんと唱へれば口輪筋の伸びてゆきたり
(砂乃) 骨格が父に似たのかムーンフェイス娘はしきりと夫を責める
(畠山拓郎) 納骨をペアで済ませる祖父と祖母 遺影もペアで並んでおりぬ
(中村成志) 丹沢の牡鹿骸はゆきしろに骨見ゆるまで洗われており