題詠100首選歌集(その36)

選歌集・その36


008:南北(213〜237)
(きり)久々に君住む街の王子駅南北線のライン懐かし
(瀬波麻人)南北に伸びてゆく影並びおりいつかあなたの思い出になる
(ラヴェンダの風)南北に細長き国の中ほどに琵琶湖目守りて一生(ひとよ)を過ぐす
018:京(156〜181)
(池田潤) 穏やかに立ち枯れていく木のありて京は三月墓前に佇む
(秋篠)京ことば 君の真似して 話しても 縮まぬ距離に 二年が過ぎる
(F-Loch)万之丞、中世の京ねりおどる集いし衆はみなしろき衣(きぬ)
(龍翔)15分後には東京駅に着く。少し背筋が伸びる気がする。
(今泉洋子)うちひさす京都を離る日本一厳しとふ寮に子を置き去りて
(やすまる) 東京が雨にうたれて埼玉へとけだす辺りに虹のあし立つ
024:相撲(133〜157)
(F-Loch)白あじさい日照雨(そばえ)に咲けば思い出す相撲みやげの餡蜜の味
(ちょろ玉) 横綱の寄り切りみたいな優しさで子を負かしてる親指相撲
(イノユキエ) 今は薄いテレビに映る大相撲力士の顔をすぐに忘れる
(きり) 不祥事が今はすっかり板につき相撲ニュースに鈍感になる
026:丸(129〜154)
(F-Loch)ふと気づく意地悪ばかりする姉の肩いがいにも丸くてうすい
(こすぎ) 手作りの輪ゴム鉄砲角丸く磨いだ飴色母の手の色
040:レンズ(78〜102)
(なゆら)駆け出した春子をトンボは複数のレンズでにらむ夕焼け小焼け
(豆野ふく) 磨き上げたレンズの向こうは眩しくて そこには君がもういないのに
佐藤紀子) 透明なビニール傘に落ちる雨レンズのやうに木立を映す
(南葦太) あの人を探し続けている彼の覗くレンズの向こうには 夏
(ワンコ山田) 両の手を丸めてのぞく遠眼鏡きみとは近くになれないレンズ
051:番号(51〜75)
(蝉マル)その耳に番号札が付いているさえ悲しきに感染地の牛
佐藤紀子) 我が持てる携帯電話の番号を時につかへて言ひ淀みたり
(音波)初恋を綴じ込んだままの絵葉書はまだ3桁の郵便番号
068:怒(27〜51)
(梅田啓子)「この人は何を言つても赦される」そう思はせし己に怒る
(砂乃)怒ること忘れたように笑ってる私は何を捨てただろうか
(中村成志)月の浮く相模の海の七月は怒りのごとく凪ぎわたりおり
(ふうせん)燃え上がる前に沈めた怒りたち今は怒涛の海を見つめる
(蝉マル)カラーの葉を怒れるごとく食べ尽くしし巨大芋虫今日は動かず
069:島(28〜54)
(行方祐美)島原の若芽ひゆるりと香るときひとりは遠いとほい樟
(理阿弥)甲板でラジオひねれば懐かしき渡島檜山は晴れとの声す
佐藤紀子)「行きたいねえ」と夫とテレビに見てをりぬ星のきれいな父島の浜
071:褪(27〜51)
(梅田啓子) 写真一枚撮ることもなく別れたり二十歳(はたち)の恋は褪せることなく
(はこべ) ひぐらしの図鑑のごとく正しげに鳴く声きけば夏は褪せゆく
(邑井りるる)褪色の進むアルバム 母七つ自慢げに持つ毬と羽子板
(空音) 胸の底突き上げて来る激情も君への愛も褪せる黄昏
(理阿弥) 目を遣れば宮崎美子のピカピカも褪せて四谷のカメラ屋の暮れ
(中村成志) ゆくほどに滾(たぎ)りの白は静まりてようよう揺れの褪せる渓谷
(鮎美) 紫陽花に色の濃き群れ淡きむれありて等しく褪せてゆきたり
073:弁(26〜50)
(梅田啓子)「あかんよ」と大阪弁に言はれたし三歳上の兄さんみたいに
(龍庵) 高層のビルの上から見下ろせば弁当売りのパラソルが咲く