題詠100首選歌集(その37)

             選歌集・その37

004:疑(245〜270)
(桑原憂太郎)疑ひを持たぬフリして放課後に面談室で聴取はじめる
(砺波湊) 妻の浮気を疑う<人生案内>の載る新聞でガラスを磨く
011:青(188〜212)
(時坂青以)青々と茂る草木に足取られ大の字とれば突き抜ける空
(龍翔)こんな日に限って こんな日に限って 青信号は続いてばかり
(永居かふね) 青々と茂った枝が潮風に揺れて手を振る遠い友達
(moco) 青色の雨降りの街通り抜けこの場所だけに吹く風探す
(白田にこ)麦わらの青いリボンを捕まえる恋がしたくてサンダルを履く
(ひいらぎ)会うことのない君だから青空で繋がってると信じていたい
(桑原憂太郎) 青春の入口と書く部室前の古いポスターを剥がして捨てた
012:穏(190〜214)
今泉洋子) 平穏な日々過ごせよと嫁入りに母が持たせし帯は青海波
(水風抱月) 明けぬ夜と齢重ねて気弱なる 平穏さえも我を毒せり
(いととんぼ)穏やかな会話を交わす時は消え 二人を包む重き沈黙
鏡月)狂おしくきみを求めて果てたあと寝息いとしき穏やかな午後
015:ガール(167〜192)
(草間 環) 仕分け人水着姿が懐かしいクラリオンガールの艶やかさ
(櫻井ひなた)真夜中のファミレス テーブルごとにある空いたグラスとガールズトーク
025:環(129〜153)
(櫻井ひなた)左利きだった数学教師から習った恋と循環少数
(F-Loch)いにしえの駱駝に揺られ来た記憶かたれよ碧いペルシャの耳環(じかん)
(イノユキエ) 白昼を巡る大阪環状線さくらうめもも何度でも咲け
(moco) 僕にだけ強気な遮断機降りてきて環状線を駆け抜ける夜
(祢莉)薬指の指環の痕が消えなくて君の記憶が未だ消せない
039:怠(78〜103)
(穂ノ木芽央)青空が怠けたからと遅刻した君はしきりに髪を気にする
(豆野ふく) 怠惰という名前の猫が憂鬱な眠りに誘う土曜日の午後
(五十嵐きよみ) 大あくびしながら怠惰をまき散らす猫の傍らいつかまどろむ
(ちょろ玉) 現在を過去化していくプロセスで怠っている幾つかのこと
(村木美月) ペディキュアを怠けた素足プライドも一緒に剥がし今日は歩こう
053:ぽかん(53〜77)
(晴流奏)焼いているホットケーキの様な月初夏の夜空にぽかんと浮かぶ
(酒井景二朗) みちばたですかんぽかんでまつてゐる春のいつぱい詰まつたバスを
(新田瑛)溜息を吐いて夜空を見上げれば月のぬけがらぽかんと落ちた
(七十路ばば独り言)ラブアゲインそれは夢です私をぽかんと見ている男の不実
(五十嵐きよみ)漫画ならぽかんと書いてあるような表情をして見入ってしまう
055:アメリカ(51〜75)
(新井蜜) アメリカがすべてであつたころ僕は世界の隅で全能だつた
070:白衣(29〜53)
(畠山拓郎)チラ見した白衣のしたの黒ブラで血圧上げて採血をする
(理阿弥) ポケットへ牛に喰わせる磁石入れ白衣の兄が往診にゆく
(あかり) 白衣への幻想徐々に消えてゆき不信ばかりが大手を振るう
佐藤紀子)薄紅の「白衣」を着たる女医もゐて和やかさうな神経内科
(ふうせん)レントゲン写真に見入る女医がいて白衣の声が優しく通る
072:コップ(27〜51) 
(行方祐美)シュヴァルツコップの歌声に似る月昇りむかしの事は言つてはならぬ
(畠山拓郎) 花を見てコップを並べ飲みながら昔の恋の話を聞きぬ
(邑井りるる) さみどりのコップの中にゆれていた氷 あなたは笑ってたっけ
(ひじり純子)ひび割れたコップをなぜか捨てがたく花をいくつか投げ入れてみる
(氷吹郎女) 注ぎにくる先輩方の顔を立て5センチ減らすコップの中身
眞露)酔いたくて肴一品コップ酒満たされぬまままた夜が更ける