題詠100首選歌集(その38)

  前回の選歌集から9日経って、ようやく10題出揃った。振り返ってみると、去年は7月21日に選歌集49、一昨年は7月19日に選歌集41となっているので、去年よりは大幅に、一昨年よりは少し、ペースが落ちている。これからペースが上がることを期待しているところだ。もっとも、「お題01」を投稿した人の数を見ると、去年が最終的に391人、一昨年が342人、今年が現在313人だから、まだ先が長いことを考えれば、必ずしも投稿者が少ないとは言えないようだ。
 暑さはことのほか厳しいが、皆様お元気でお過ごし下さい。


<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して6年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


        選歌集・その38

003:公園(252〜277)
(新津康) 公園も寂びれたままで思い出とともに消えてく過去の町並み
(砺波湊) 「前世は舟だったんです」ぶらんこに打ち明けられる夜の公園
(星桔梗) 公園のブランコ揺れているときに 過去の空間ちらりと見えた
014:接(171〜195)
(F-Loch)クリムトの女うつむく応接間、叔父の秘め事あまりにおおい
(bubbles-goto)紫陽花の斑に腐る封鎖区に予防接種の長き行列
(今泉洋子)直接は好きと言へずに折句にて告白をした青葉薫る日
(夢雪)さりげなく接していた父もういなく不在が重く鳴り響くだけ ...
017:最近(163〜187)
(F-Loch)憎まれてしまうでしょうか最近のわたしはすこし正直すぎる
(bubbles-goto)ねじ山のつぶれかけてる最近は思い出すのに時間がかかる
(湯山昌樹) 最近の流行(はやり)について教えらる 国語の嫌いな子が笑いつつ
032:苦(107〜131)
(時坂青以)じっくりと奥歯を使う苦味あり旨いと思う私は大人
(丸井まき) 苦笑する君が見たくて会いに行く苦し紛れの言い訳持って
(あひる) 椀に盛る命の多さ思ふればシラスご飯はほのかに苦し
(駒沢直) 欲しかったはずのものみな色あせて苦笑いする もう誕生日
033:みかん(102〜127)
(市川周)駆け落ちを後悔している岐阜羽島(冷凍みかんももはやみかんで)
(あひる)瀬戸内は小舟浮かべて微睡めりみかんに白き花咲く五月
(じゃこ) 「晩ごはん冷蔵庫です。チンしてね。」のメモの上にみかんが一つ
042:学者(77〜101)
(高松紗都子)星を見て無限をうたう瞳には学者のような孤高のひかり
(豆野ふく)太陽にキスするようなふりをする 小さな君は恋愛学者
(龍翔)星なんて興味無いけど、あなたには天文学者を気取らせておく。
052:婆(53〜79)
(sh)婆ちゃんがたった一言口にした「馬鹿だな」という言葉の重さ
(新田瑛)華やいだ後は小さな虫になってお転婆むすめはおうちへかえる
(水絵)お転婆と言われし昔今は夢 転倒予防の講習受くる
佐藤紀子介護施設に住みゐし母は外食を「娑婆のご飯!」と喜びくれき
074:あとがき(27〜52)
(龍庵) 最初からあとがきを読むような恋 菜の花はただ静かに揺れる
(行方祐美)晴天のあとがきとして降る雨かひと日のわれを部屋に籠もらせ
(鳥羽省三) あとがきを初めに書いた如くなる彼の歌集の冒頭の歌
(砂乃) 爪あとがきみの記憶を呼び覚ます君に逢えない夜はことさら
(じゅじゅ。)いつもそう別れたあとがきまずくて他人のふりもできないでいる
佐藤紀子) 一番に言ひたきことは「あとがき」にあると信じてまずそこを読む
(中村成志)公園に日照雨は振りてあとがきの長き歌集を胸に抱える(注:「振り」は「降り」のミスか?)
眞露) 水鳥のあとがきれいな弧を描き水面にぎわす雨の公園
(鮎美)校庭の土も埃もしづめゆく九月の雨は夏のあとがき
野州)幾つもの謝辞を並べて処女作の読ませどころはあとがきなりき
075:微(27〜52)
(龍庵) どうだっていいことだからまた今日もそうだねと言い微調整する
(コバライチ*キコ) 無糖より微糖コーヒー好めるは優しきひとと瞬間想ふ
(鳥羽省三) 微細なる腫瘍でしたと言ふ女医の細き眉毛の震へ見て居り
佐藤紀子) 「そこのとこうまく伝へて呉れ」と言ふ ちょっと微妙な友の伝言
眞露) 青白き光まといて帆をあげる微風すずしき夜の船団
077:対(26〜50)
(龍庵)父の愛知らない僕が子供らの丸いまなこと対峙している
(行方祐美) 対馬音をしらざるままに過ぎきたりわれはひろらに楠の下
(コバライチ*キコ)明日といふ対岸眺めゆるやかに落ちる夕陽を掌に乗す
(畠山拓郎) 対決を幾度も重ね手の内が読めてきたからフォークを捨てる
(砂乃) 鮮やかな欅の緑をくぐり行く対向車線の君を見送る
(あかり) 対話にはならない人と諦めて口を閉ざした闇を見つめた
佐藤紀子)ことごとに反対意見を述べてくるライバルなりき若き日の彼
野州)言ひよどむことも技だと思はせて東北弁の対談上手