題詠100首選歌集(その41)

 在庫がなかなか貯まらなかったが、やっと久々に(?)規定数(選歌集掲載の原則として私が勝手に決めた数で、在庫25首以上の題10題)に達した。最後の方の題は、なかなか第2巡の50首に届かない。


      選歌集・その41

019:押(158〜182)
(A.I)快楽は快楽として押し込めたスカートの中にある異次元
今泉洋子)軍服の伯父の写真が掲げられ実家(さと)の長押に終はらぬ昭和
020:まぐれ(157〜181)
(moco) 神さまの気まぐれだから 飽和したままで僕らは永遠となる
(田中彼方)猫の目のような気まぐれにもなれて、アジの干物をふたりでつつく。
(白田にこ)コンビニでツナマヨ選ぶきみの手がぼくのからだに触れる気まぐれ
今泉洋子)わたくしの猫の部分のきまぐれが騒ぎはじめて今日はお昼寝
ウクレレ)足音が意思を持ち出す夕まぐれ きみのヒールが近づいてくる
048:来世(78〜102)
(わたつみいさな) 来世など知る由もなくひたすらに虫かごの中ひかる蛍よ
(豆野ふく) 来世まできっと覚えてられないから 解いて沈めた赤い組紐
(中村梨々)来世を袋に入れた道化師は笑ったままで消えてしまった
(市川周)来世もカドにぶつける小指かな(とか言ってたらコブラになった)
(ちょろ玉) 来世でも君に逢えたら「前世から好きでした」って言わせるつもり
(村木美月)来世まで引きずりそうな縁ひとつ後生大事に今生をゆく
050:虹(78〜102)
(牛 隆佑) 七色に一つ足りないあの虹に付けたす歌を考えている
(五十嵐きよみ)とりたてて不幸せではないけれどもう何年も虹を見ぬまま
(ちょろ玉)いつだってきれいなまんま消えていく虹にむかしの君がかさなる
061:奴(51〜76)
佐藤紀子) 夏の夜のビール、枝豆、冷や奴 定番なれど時に恋しき
(五十嵐きよみ) いい人で片づけられてしまうより嫌な奴だと言われてみたい
062:ネクタイ(51〜75)
(原田 町)職人の父が遺せしネクタイは冠婚葬祭ほか二、三本
(橘 みちよ)雨の匂ひと共に入り来て隣席に座れる男ネクタイ黒し
(酒井景二朗)ものわかり良いふりをしてネクタイを緩めるときの胸の淋しさ
(音波) たましいをあなたをしばりつけるためゆっくりしめるあかいネクタイ
(飯田和馬)喪のためにネクタイ絞むる我を見て「見合いか」などと言いし人あり
080:夜(27〜53)
佐藤紀子) ベランダで夜明けの月を眺めたり 泊まりに来たる二人の孫と
(青野ことり)旅にもでず音もたてずに眠る夜半 闇のなかにはなんにもいない
(新井蜜)肌を刺す光の中を帰り来て千夜一夜の物語読む
野州)汗ばみてナボコフ読めばぬばたまの夜は窓から侵し始めぬ
081:シェフ(26〜52)
(龍庵)幼子に席を譲っている君をシェフの帽子のように見上げる
(行方祐美)シェフチェンコの『吟遊詩人』を開く日はいつも曇天 今気づきたり
(コバライチ*キコ) 「だいじょうぶ。ひとりでできるもん」と言ふちびっこシェフの母の日のプリン
(鳥羽省三)デカ長の次男のシェフの差し入れのフランスパンの旨き納会
(砂乃)滑り出す外科医の指先リズム取る魚をさばくシェフのごとくに
佐藤紀子)父の日にシェフの帽子を貰ひたる夫が自慢のポトフを作る
(鮎美) ヴィシェフラド墓地にそそげるボヘミアの光よ雨よかぎりなくあれ
082:弾(26〜50)
(ひじり純子)弾除けにしてきた人のありがたさ普段は気にも留めないけれど
眞露) どこからか耳に聴こえし弾き語り加茂の流れを湛ふ三渓
野州)酔ひながら弾くフレーズの不確かさバックビートにだけは合はせる
083:孤独(26〜50)
(行方祐美)孤独とは突き抜ける天百年の後のいのちをわたしはしらず
(畠山拓郎)孤独だと感じる夜はCDを子守唄にしベットに入る
(砂乃) ちっぽけな不安と孤独が住み着いた私の心を照らす向日葵
(中村成志) 艶めくというは孤独な動詞にてゴーヤの蔓に遮られし陽
佐藤紀子)「孤独っていったいなあに?」青豆が身を寄せ合ひて莢に並べり