題詠100首選歌集(その43)

            選歌集・その43


016:館(184〜208)
今泉洋子) 足裏(あうら)まで被爆写真の墨色が染みてきさうな資料館出づ
(さまよいくらげ)図書館の紙魚になりたしリクルートスーツを手もみで洗う夜には
029:利用(131〜155)
(伊倉ほたる)効き方の速度が違う言い訳を利用と使用に塗り分けてみる
(お気楽堂)ご利用が計画的でないひとを計画的に誘う広告
030:秤(127〜151)
(こゆり)思い出と秤にかけて進めない夢から覚める終点三鷹
(希屋の浦)善悪のわたしの中の天秤は静かにゆっくりバランス崩す
(イノユキエ)天秤の揺れがやんだらからっぽの皿だけだった青春終わり
(天野ねい) A型の天秤座との相性をいろんなサイトで占ってみる
(お気楽堂) 春風もともに秤に乗ったらしい切手一枚買い足して貼る
039;怠(104〜128)
(こゆり)アンニュイと怠惰の違いがわからずに自意識過剰な夏がはじまる
(南野耕平) 存分に怠けましたという顔が連休明けの座席に並ぶ
040:レンズ(103〜127)
(黒崎聡美)過去さえも海の向こうに遠のいて展望台のレンズを覗く
(ふみまろ)あこがれたレンズの向こう偽りの姿ばかりが僕をくもらす
(湯山昌樹) コンタクトレンズをこわくて入れられず眼鏡暮らしは三十五年
051:番号(76〜102)
(高松紗都子) 番号で呼ばれるときは体温をやや低くして席をはなれる
(村木美月)あのひとの好きな番号意図的に塗りつぶしてる本日のロト
066:雛(52〜76)
(青野ことり)雛の日のほの明るさを胸に抱く ぼんぼりほどのちいさなゆらぎ
(音波)ふるさとの川の流れは行き過ぎて あの流し雛送る三月
084:千(26〜50)
(鳥羽省三)「おそらくは千に一つの確率」とCT見つつ脳外科医言う
佐藤紀子) 初任給二万四千円也が羨(とも)しがられき二十二の頃
(新井蜜)見られてるやうな気がして振り向いた千日前の人込みのなか
野州)千切られて遠ざかりゆく自転車のいちれつ朝のひかりを反す
(橘 みちよ) この羊歯のごとく伸びくる千の御(み)手もても救へぬわれかも知れず
085:訛(26〜51)
(畠山拓郎)お互いに訛りを指摘しあう夜「そちらこそが」と水戸弁が言う
(鳥羽省三) 青森の訛り厭へる叔父と聴く「俺は田舎のプレスリー」佳し
(ひじり純子) 今風の言葉を話す子らありて隠しおおせぬ訛愛らし
(あかり)父の声きいた途端にふと口をついて出てくる故郷訛り
(砂乃)英語にも訛りがあるっていうことに気付いた21歳の春
(理阿弥)連結器のかこち言まで訛り帯び石勝線はトマムを過ぎる
(新田瑛) 各地から訛りを乗せたトラックが来ては幾らかこぼして帰る
(橘 みちよ) 留学生集ふポットラックパーティはお国訛りの英語とびかふ
086:水たまり(26〜50)
(コバライチ*キコ) あめんぼは行きつ戻りつ水たまりあふるるほどの輪を描きおり
(鳥羽省三) 潦(にはたづみ)と言へば何やら儚くて午睡の夢の水たまり越ゆ
(龍翔)水たまりを避けて通った。もう僕は子どもには戻れないみたいだ。
(鮎美)祖母逝きて祖母をらぬ秋へちま水たまりし瓶の蓋きつく閉め