題詠100首選歌集(その44)

             選歌集・その44


007:決(245〜270)
(桑原憂太郎)今日付の決裁文書も書かぬままエスケイプした生徒を捜す
(砺波湊)約束は未来をゆるく決めることカレンダーにはしるさずにおく
(お気楽堂) 帯解けば意地もほどける花疲れ決心なんてあてにならない
(はせがわゆづ)乱反射するあめつぶにうつりこむあなたが決めたこれからのこと
(宵月冴音)決定的な君の言葉を待つ時にやけに大きくなる秋の雨
009:菜(234〜258)
(お気楽堂)いいかげんけんかの種も尽きたれば菜の花一本手折りて帰る
(斗南アキラ) 菜の花の迷路を抜けてあのひとの夢路へ通う月夜の魔法
(紺野月子)夏野菜カレーすくいて三月のさよならがまたリフレインする
(蓮野 唯) 太陽が染め上げた黄の菜の花の束を贈った日の懐かしさ
013:元気(200〜224)
(志井一)昨日より元気がなくて去年より元気があると思ってる今日
(お気楽堂)脱ぎ捨てる元気なわたし膝を抱くひとりのわたしに着替えて泣くの
(蓮野 唯)微笑をくれる元気の源をベダルをこいで追い抜いて行く
022:カレンダー(156〜180)
ウクレレ) 如月の切れ端のこるカレンダー 言えない言葉が静かに積もる
(お気楽堂)もう顔もおぼろげなのにカレンダーのそこだけ忘れない誕生日
023:魂(155〜179)
(蓮野 唯)膝抱え踏み出せずにいる魂を卒業式の風が押し出す
031:SF(127〜151)
(ふでこにあ)あなたではないかも知れぬ人といていつまでも月沈まぬSF
(蓮野 唯)SFで説明できたら楽だろう恋すると飛ぶ異次元空間
068:怒(52〜76)
(如月綾)感情を出すのは苦手だと君は喜怒哀楽の哀の目で言う
(水絵)怒りより悲しみ溢れ受話器置く 恨みつらみは涙で流す
069:島(55〜80)
野州) 干し烏賊を並べて島の暮るるころ遠いところで呼ぶ声がする
(原田 町) いまさらの思いはあれど『夜明け前』島崎藤村の世界に浸る
(音波)地図にない二個の孤独な島として触れられるのを待ってる乳房
(南野耕平) 島唄が流れる浜で火をたけば過去も未来も踊りはじめる
070:白衣(54〜79)
野州) ゆふ焼け色の染みをいくつか馴染ませて白衣は六月の風を孕みぬ
(水絵)幼子の裸足になれば足えくぼ  縫い上げされし白衣着ており
(晴流奏) 涼しげな顔で言葉を受け止める白さ際立つ主治医の白衣
073:弁(51〜75)
野州)上に立つ器ではなきことなどもやがて弁へかなし春の日
(まつしま) 不安定なのは情緒かあちこちに安全弁がほしいこのごろ
(青野ことり)真白い蕾は未だほころびず 花弁の元に紅を隠して
(橘 みちよ)上の子は巣立ちて下もはや高二弁当作りも終盤となる
(sh) 半額の弁当買った帰り道、信号待ちの空に満月
(水絵) 弁慶の伝説残る舟かくし 夫婦遍路と道連れの宿