題詠100首選歌集(その50)

 最終題が、やっと50首に達した。もっともどういうわけか、その前の数題はまだ49首どまりなのだが・・・。


         選歌集・その50

004:疑(271〜295) 
(お気楽堂)旅先のさえない店でかき氷食べつつ口にできない疑問
(ともの) 目の届くところにわざと残しゆく携帯電話疑惑を増して
019:押(183〜207)
(野坂らいち)早春にもらった花を押したまま綺麗な過去になってゆく夏
(葉月きらら) 押入れに眠るアルバムあの頃のままの二人と「まだ好きです」と
(山田美弥)「ごめんね」の四文字だけを打ち込んできっと押せない送信ボタン
021:狐(181〜205)
(蓮野 唯)恋愛は狐と狸の騙し合いそう切り捨てて目を背けてた
(竹本未來) 叶わずに廻り続けるこの気持ち 雨上がりの夜狐火になる
(空色ぴりか)ベランダにおいで「狐の嫁入り」がもうじき虹を連れてくるから
048:来世(103〜127)
(ワンコ山田)『来世では会いたくない人リスト』書く死を受け止める儀式のひとつ 
(黒崎聡美)無花果はぬるくひろがりおちてゆくわたしはわたしの来世だろうか
(お気楽堂)おたがいに踏み出せぬままこの先のことは来世に持ち越しましょう
059:病(76〜100)
(草間 環) 病身の友を見舞えば夕暮れて痩せた右手にとまるひと時
(穂ノ木芽央) 時刻表にないバスを待つ盂蘭盆の市立病院前停留所
(まといなみ)人生の半分が月曜日です仮病とともに生きております
(秋月あまね)病欠の補習としての配布物、ノート、プリント、それにあこがれ。
060:漫画(76〜100)
(斉藤そよ) 断片化されてますますいとおしい ぱらぱら漫画のようなあのころ
(nasi-no-hibi)怒ってる人の口から吹き出しを書いて漫画の続きにしよう
(高松紗都子)思い出の『りぼん』をほどきあまやかな少女漫画に時をかさねる
(南野耕平) あの頃は漫画の中のヒーローに僕を重ねて空でも飛べた
062:ネクタイ(76〜100)
(牛 隆佑)ネクタイをきつく締めても一日はゆっくり過ぎてゆく原爆忌
(じゃこ)ネクタイが似合わないからあなたにはラブレターでも書いてあげます
(穂ノ木芽央)ネクタイを緩めて煙草に火を点ける内ポケットの封書重たし
(南野耕平)ネクタイを締めると背筋が伸びるのは飼いならされてしまったからか
(ちょろ玉) この部屋で昨夜は何も起きてない そんな顔してしめるネクタイ
080:夜(54〜78)
(原田 町)心なし夜風に秋を感じつつ打ち上げ花火きみと見てをり
(音波)書きかけの手紙をしまう 夏の夜の感情線からどこへも行けず
(如月綾) 迫り来る明日の音に怯えてる 夜明けの来ない街にいきたい
(七十路ばばの独り言)家事終えて夜のひととき外(と)に出れば光見えねど音する花火
(水絵)夜の闇切り裂き走る稲妻に 鬼籍に入りし君思ひおり
(ちょろ玉) 夜中まで残るふたりのためだけに時間を止めて浮かぶ三日月
095:黒(26〜50)
(行方祐美)黒子とは小さな秘密しづかなる右の足裏のわたしの汚点
(中村成志)花は減りみどりいよいよ黒くなる梅雨の最中の谷(やと)寒ざむし
(理阿弥)仄苦い商談のあと八月のゆるらり揺らぐアスファルトの黒
(鮎美)独身といふ語も我に馴染みきて黒きレースの日傘を開く
(生田亜々子) ポジ画よりネガにあなたの本当が見える気がする黒い目と口
100:福(26〜50)
(中村成志) 軒先の逆さの〈福〉は陽に映えて色とりどりの鳴り物かなし
(こすぎ)単色の幸福だけを願いつつ『一年何もないときが無し』