題詠100首選歌集(その52)

           選歌集・その52


049:袋(104〜129)
(湯山昌樹)袋菓子のおまけに付いた野球カード 何度買っても長嶋は出ず
(お気楽堂)一週間分のためいき詰め込んだ袋が深夜ぼやきはじめる
(振戸りく)袋には入りきらないお悔やみの心を込めてかける水引
(山田美弥)上靴の袋を縫うため夜なべして俄仕込みの母親ごっこ
(B子)戸袋に注意という字を見つめてる直立不動の通勤列車で
064:ふたご(78〜102)
(高松紗都子) ふたご座のひとりっ子だというきみは人待ち顔で宇宙をあるく
(晴流奏) 似ていないふたごの友の妹の八重歯に恋をしてたあの頃
(ともの)恋人じゃなくてあなたとふたごなら、遠い思い出、分かちあえたね
(秋月あまね) 夕木立ふたごの兄と妹がかたみに語り合うような恋
(お気楽堂)ひとつ割ればふたごの黄身よ冷蔵庫開けて使わぬひとつを戻す
065:骨(77〜102)
(南野耕平) 骨付きのカルビに喰らいつく夜は犬と一緒に遠吠えをする
(高松紗都子) 木枯らしを避けて子猫とたわむれるきみの背骨が透ける黄昏
067:匿名(76〜100)
(南野耕平)匿名の言葉は燃えるゴミですかそれとも燃えない情念ですか
(晴流奏) 匿名で交わす約束午後五時に僕らの事を知らない街で
(壬生キヨム) 匿名で終わる人生でもないしきみの名前を呼び捨てにする
(おっ) 雨が降る火曜の朝は目覚めない匿名希望の恋をしたまま
ウクレレ) 観覧車同じ方向まわってる 匿名希望の男女を乗せて
081:シェフ(53〜77)
(草間 環) シェフと主婦一字違って大違いで主婦は死ぬまで家のシェフする
(揚巻) 気づいても心変わりを責められぬ寡黙なシェフの塩ひとつまみ
(七十路ばばの独り言)我はシェフ夫の釣果待ちかねて購いし魚捌き始めぬ
083:孤独(53〜77)
(原田 町)遺されしひとの孤独を思ふとき河野裕子の歌せつなかり
(鮎美)ラーメンの汁飲み干せば胃袋の内よりぬくく孤独なりけり
(ふうせん)孤独など知らぬふりして見つめてる一輪挿しのあの青い花
(sh)誰よりもひとりぼっちな太陽が生きものたちの孤独を照らす
096:交差(26〜51)
(あかり)ツイッター ネットの上の交差点 誰も彼もが小走りに行く
眞露)芝草にひかりと影の交差するパドックの中そよぐたてがみ
(新田瑛) 交差点は早足で渡る 「生き急ぐ人々の群れ」の一員として
(原田 町)交差点の隅に小さき花束の雨に濡をり拝(おろが)み渡る
(生田亜々子) 交差する丸文字たちが悲しいと眩しいと泣くまなつのまひる
097:換(26〜50)
(コバライチ*キコ) 大好きを交換しましょそうしましょ子どもの無邪気はときに恐ろし
098:腕(26〜50)
(コバライチ*キコ)おんばしら曳いて世代に渡しゆく男の腕の逞しきかな
(中村成志) 抱かれし金色(こんじき)の腕の面影もおぼろとなるや 我四十三
(空音)腕を組む事すらできず君の肘のシャツを掴んだ19の春に
(こすぎ) 腕にまで木賊(とくさ)色した日焼け跡父は空とも友人だった
099:イコール(26〜50)
(龍翔) イコールでないことくらい知っていた。チャンスにかけてみたかったんだ。
(天鈿女聖)イコールで結びつくもの考える ゲリラ豪雨は活発になる
(Yosh) イコールのない世の中でピース嵌め 完成のないジグソーパズル
(新井蜜)イコールになるはずのない算式を意識の底に積み上げておく