尖閣列島

 尖閣列島が大きな問題になった。
 結果論かも知れないが、現在の時点での大まかな感想は以下のようなことだ。
1 我が国の対応は、いかにも拙劣である。今回の「検察当局の判断」は、結果においてはやむを得ないものだったと思う。しかし、検察がこのような政治的判断を下すことは、その職務の範囲を超えたものだと思うし、その背後には、どこまで明示的だったかどうかは別として、政府の関与があったと思わざるを得ない。それを否定し、検察当局に泥をかぶせる政府の姿勢には大いに疑問がある。大阪地検の特捜部問題とのからみで言えば、検察当局が政府に貸しを作ったとも言えそうな気がするし、逆に言えば、その問題をテコにして、政府が非公式な圧力を掛けたとも言えそうな気もする。
2 中国のなりふり構わぬ居丈高な姿勢が目に付く。中国がまだ国際政治的に未熟な国家であること、独裁国家であること、他方、国内的には格差問題、民族問題を含め多くの問題を抱えており、民衆の蜂起に神経質になっていること、かつての文化大革命をはじめ危険な方向に走る可能性を秘めた国であること等々、中国の「危険性と脆弱性」が露骨に現れたとも言えそうな気がする。これまで中国に対して比較的好意的な見方をしていた私だが、こうなってみると、「まだまだ油断することはできないな」という印象を強めたことは否定できない。


 細かい点は別として、私の現時点での感想は以上のようなことなのだが、私が一番疑問に思っていることは、船長逮捕が適切だったかどうかということである。もちろん、我が国の法制からすれば、それは適切な対応だったと思う。しかし、政治的要素などまで考慮に入れれば、無理に逮捕する必要はなかったのではないか。我が国の主権を示すためなら、その漁船を追い散らすだけで十分であり、長時間にわたり追跡し、逮捕せざるを得ない状況にまで追い込む必要があったのかどうか。(もっとも、詳しい事実関係は知らないので、そのような方法が取り得ない状況だったのかも知れないが・・・)
 逮捕というニュースを聞いたとき私がまず感じたことは、「随分思い切った措置を執ったな」ということだった。同時に「先行きの見通しはあるのだろうな」ということだった。もちろん、一巡視船の判断でそこまで踏み切ったとは思えず、当然政府中枢の判断が加わっているものだと思ったが、日中両国間の問題として、どこまで事態の展望を読んだ上での判断なのかどうか、不安を隠し切れなかった。結果として見れば、中国が過大な反応を示して現在に至ったのだが、その可能性を考慮に入れていなかったとすれば、政府の見通しの甘さには呆れるしかない。民主党代表選挙のことで頭がいっぱいで、そこまで考えが及ばなかったのだとすれば、何をか言わんやである。


 中国という国、基本的には、いまだに中華思想を抱いている国だと思う。しかもGNP世界2位という大国に成長して自信を付けた現在、中華思想はいよいよ強まっているのではないか。他方、過去における世界列強による支配、我が国による侵略等々、複雑な被害者意識も抱いている国であり、その心情の複雑さは、我々の理解を超えたものだとも思う。言い換えれば、神経を配りながら、用心深く付き合わなければならない隣国だと思うが、その見かけの微笑に、ついつい心を許していたところがあったのではないか。
 もとより、尖閣列島につき我が国の立場をゆがめる必要は毛頭ない。しかし、それが極めてセンシティブな問題であることを十分意識し、相手に余計な刺激を与えないように気を配るということは、隣人との付き合いの上で常に念頭に置いておかなければならないことなのではないか。

 繰り返しになるが、中国が「扱いにくい隣人」になる可能性のある国家であることを念頭に置きつつ、「扱いにくい隣人」にならないようにうまく付き合って行くことが肝要なのだと思うが、それにつけても、我が国政府、とりわけ政府中枢の見通しの悪さ、対応のまずさには失望せざるを得ない。