題詠100首選歌集(その53)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して6年目になる。まず私の投稿を終えた後、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。


        選歌集・その53


033:みかん(153〜177)
(南雲流水) 後先も考えないで歯を磨くさびしい夜のみかんは苦い
(bubbles-goto) ほらよっとみかんが描く放物線ほどの距離ある友の親しさ
(こなつ)ていねいにみかんの皮をむいてをり 心のひだのすじを取るよに
ウクレレ)引越しの愛媛みかんの段ボールに黄色くなった文庫が眠る
(石の狼)缶みかん冷凍みかん夏みかん。夏蜜柑だけ漢字が似合う
037:奥(127〜151)
(蓮野 唯) 引き出しの奥で今でも眠ってる出せないままの恋文ひとつ
(振戸りく) ほの暗い路地の奥には必ずと言っていいほど猫のいる街
(おっ)スポンジが奥の汚れに届かないだけでイライラする夜もある
(A.I) ごめんねが言えないままの食卓で奥歯に刺さる古代魚の骨
(田中彼方) かなえてはならぬ願いがそだつ夜、合わせ鏡の奥をみつめる。
039:怠(129〜153)
(桑原憂太郎) あいさつをするのも返事をかへすのも怠惰なフリして教室に居る
(お気楽堂) 今日もまた売上なしのレジを閉め勤怠表に印鑑を押す
(越冬こあら) 倦怠期やっと乗り越え安寧の関係となり線香を嗅ぐ
(わだたかし)ひと月に一日くらい全力で怠けるんだと意気込んでみる
(bubbles-goto) 人生に飽いた王妃の怠惰さでクロコダイルは泥に寝そべる
ウクレレ) 勤勉の仮面を週に5日つけ残り2日は怠惰な素顔
040:レンズ(128〜152)
(蓮野 唯) コンタクトレンズはずして告白をしたらはっきり好きだと言えた
(越冬こあら) 古里も笑顔も嫉妬も涙腺も夢見るほかはみなレンズ越し
(田中彼方) ゆっくりとレンズのカビが広がって、とるに足りない日々を愛して。
066:雛(77〜101)
(じゃこ)好きな食べ物を聞かれて雛鳥と答えて以来メールが来ない
(壬生キヨム) 春ですね もうすぐ年度末ですね 男同士で雛あられ食う
068:怒(77〜102)
(晴流奏)お囃子は怒涛の如く押し寄せて回るねぶたは大見得を切る
(五十嵐きよみ) くちびるを真一文字に引き結ぶ怒るつもりが泣きたくなって
(中村梨々) 湖に怒りを投げて秋が来てやがて琥珀の花が咲きます
(高松紗都子)庭に落ち「み」と甲高く鳴く蝉の怒りのような夏の終焉
ウクレレ)ヒーローは怒り肩だと胸を張る きみのバッグを幾つでも持つ
(お気楽堂)あまりにもくだらないので怒る気も失せてそのままつきあう電話
(桑原憂太郎) 脈絡をわざとはずしておもむろに怒つたふりして生徒惑わす
075:微(76〜100)
(なゆら)逆上がりができた春子の微笑みを独り占めして我も微笑む
ウクレレ)きみの手がぼくのおでこに当てられて微熱が不治の病にかわる
(高松紗都子)待つことも待たれることもいとしくて微かな風が吹きぬけてゆく
084:千(51〜76)
(生田亜々子)千切っても細々とした欠片まで私であるという悪い夢
(じゃみぃ)なけなしの千円札と小銭持ち馴染みの店で心を洗う
085:訛(52〜76)
(鮎美)しりとりを一語一語とたぐり寄せつつ思ひだす君の訛も
(青野ことり) あまりにも日常的で訛とは気づかなかった父のもの言い
(草間 環) 元カレのお国訛を聞きながら二者択一の青空があり
(如月綾) 柔らかい訛りが混じった風が吹くこの街で君は生まれ育った
086:水たまり(51〜75)
(木下奏)水たまり映る私は儚げでこの世の終わりの顔をしている
(飯田和馬) 水たまりに犬がいるよと言う犬の怪訝な顔を引き連れてゆく