題詠100首選歌集(その54)

 酷暑の夏から、一足飛びに初冬となり、やっと秋が来た。快適な秋がいつまで続くのか、何となく不安な気がしないでもない。


          選歌集・その54

003:公園(278〜302)
(短歌日和)夕焼けに包まれている公園はそれぞれ心にひとつずつある
(紫月雲) 公園に伸びる夏影でこぼこに家族のかたちを刻んでゆけり
(鳴井有葉) そわそわとダシ巻き玉子を焼くように一面に陽が注ぐ公園
016:館(209〜234)
(蓮野 唯) あなたの名貸し出しカードに見付けたら花園になる午後の図書館
(わだたかし)ボロボロの映画館からはじまった二人の長い長いお話し
(はせがわゆづ)触れそうで触れない指たち閉館の知らせを黙って聞いてた日暮れ
(村上きわみ)閉館をしらせる文字のくきやかな黒を喪章として秋に入る
069:島(81〜105)
(ちょろ玉) 無人島であなたと暮らす夢を見た ずーっとずっと夕日を見てた
(お気楽堂) 切り替わるテレビ画面が江ノ島と海をうつして猛暑日の報
070:白衣(80〜104)
(nasi-no-hibi)夕暮れの白衣が赤く染められてからだの中をあしたが逃げる
(穂ノ木芽央)リノリウムに白衣脱ぎ捨て五分だけ男に戻る特別病棟
(高松紗都子)午後二時の実験棟へ向かうとき白衣はきみのこころを閉ざす
(すいこ)読んでいるブラックジャックは擦り切れて白衣が回るコインランドリ
071:褪(77〜102)
(五十嵐きよみ) 色褪せたシャツを着こなす人といて真新しさが恥ずかしくなる
(牛 隆佑) エネオスやローソンの灯が明々と私の影を褪せさせてゆく
(ちょろ玉) オレンジの光が列車に射し込んで色褪せていく今日のいろいろ
(のわ) 初恋の人が色褪せないわけは ただ遠くから見つめてたから
(お気楽堂)思い出はみな色褪せる鮮やかな色は心が足してゆく嘘
072:コップ(77〜101)
(高松紗都子)たよりなくゆがんでしまう紙コップに指ぬらしつつ夏を見送る
(お気楽堂)側面に名前書かれた紙コップ並ぶ小窓を閉め手を洗う
073:弁(76〜100)
(木下奏)弁当に何が入ると嬉しいかアンケートする結婚間際
(五十嵐きよみ)注釈の小さな文字を読み上げているかのような弁解を聞く
(ちょろ玉)政権が代わるニュースを聞きながらひとりで食べるコンビニ弁当
(高松紗都子)弁解をすれば冷えゆく胸の底九月の雨は何も言わない
(山桃)下駄の音はるか遠くに耳にして古都の町屋の弁柄(べんがら)格子
(お気楽堂) おたがいに腹に一物あることを弁えながら笑って暮らす
076:スーパー(77〜101)
(五十嵐きよみ) スーパーと頭に付いた語の多さ英語の辞書で「super」を引く
(高松紗都子)かけちがうボタンのように遠ざかる君が乗りこむスーパーはくと
(お気楽堂) スーパーのチラシが入らないことも新聞変える理由のひとつ
087:麗(51〜75)
(南葦太)泣き顔のとても綺麗なひとだった 今 泣いているのは誰のため?
ウクレレ) 昼下がり綺麗な文字の葉書来て香り華やぐダージリンティー
088:マニキュア(52〜76)
(木下奏)マニキュアは黒しかしない指の先闇を宿して心をしまう
(七十路ばばの独り言)訳もなく昂ぶる心押さえかねマニキュアを塗る赤と黒との
(水絵)美しく老いることなど無理な身は  せめてこだわるマニキュアの色
(晴流奏)子供用マニキュアを塗るささやかな母のお洒落は姉のお下がり