題詠100首選歌集(その60)

           選歌集・その60


017.最近(213〜237)
(夷と鵜)最近も変わらず元気にやっています慣れない空にそう呟いて
(ぱかり) 最近の僕を知らないひとたちが僕を笑っているクラス会
(内田かおり)カラオケで最近の歌歌いつつ白髪の君の赤いエルメス
ひぐらしひなつ) 最近のあなたのことを聞きながら雨の強さを見守っていた
019:押(208〜232)
(r!eco)引き出しの奥に押し込み取り出せずしまったままの最後の言葉
(内田かおり)戸惑えば背中を押して風が行く躓きそうに蒲公英を踏む
(闇とBLUE) 引き出しに少女時代を押し込めてもう動かないタイムマシンは
(久野はすみ)押すたびにうるさく鳴りしドアベルも錆びて泣き虫フクロウが鳴く
021:狐(206〜230)
(村上きわみ)ブラウザを火狐と呼び真夜中の暗いあそびを呼びよせている
(清次郎) 葡萄の実に届かぬ狐の心地にて君の欠点ふた晩さがす
(水風抱月)獣より牙持つ「ひと」の言を忌み今し眠らん狐狸の褥に
046:じゃんけん(129〜153)
(bubbles-goto) じゃんけんのチョキのかたちでモメるよに議論の仕方からする議論
(田中彼方) けっきょくはふたり裸になるために、声をひそめてじゃんけんをする。
今泉洋子)じやんけんをする前からもう負けてゐる気弱なわれの影は揺らぎぬ
047:蒸(127〜151)
(おっ)蒸し暑い夏の朝でも美しい人に出会えばいい風が吹く
(空色ぴりか) 中華街をぶらぶらといく店先にただよう蒸気を嗅ぎわけながら
(山田美弥)どうせなら異常気象のせいにして夏に涙を蒸発させる
今泉洋子)蒸し暑き闇に目覚めしあかときを方位感なく鵲の啼く
081:シェフ(78〜102)
(まといなみ) 駄菓子屋の百円焼そばあの店のあのばあちゃんが僕たちのシェフ
(山桃)見たことのないシェフよりも目の前で握ってくれる職人が好き
(お気楽堂)みずみずしい大根の肌なでおろしシェフはよからぬ想像をする
(高松紗都子) 休日のねむりをさますポタージュに私のシェフが魔法をかける
(星桔梗)外は雨 今日もめげずに腕振るう笑顔の少女ままごとのシェフ
083:孤独(76〜100)
(富田林薫)靴下を穿いた孤独はアスファルトかつかつという音も残せず
(牛 隆佑)ステレオのボリューム上げるゆっくりとあなたを知って孤独を知った
(お気楽堂)既婚者となって孤独をぬけ出ると今度はひとりの時間が欲しい
(高松紗都子)ふれあったその瞬間に受けとめる深い孤独も恋としておく
(桑原憂太郎)同調の圧力かかる教室に漂ふ35人の孤独
085:訛(77〜101) 
(お気楽堂) かつて捨てし訛りたやすくよみがえるふるさとというわたしの一部
(藻上旅人)やわらかな田舎訛りを真似てみる未だにあなたを忘れられない
(五十嵐きよみ)フランス語訛りだということにする治りきらない君の鼻声
098:腕(51〜76)
佐藤紀子) 喪の朝を男は何も言はざりき腕組みをして眼(まなこ)つむりて
(橘 みちよ) 鷹匠の腕を放れし若鷹の昂りもちて君を追ひゆく
(飯田和馬) 腕のない鳥が愛するやり方で面影だけを追い求めてる
099:イコール(51〜75)
佐藤紀子) 触れ合へぬ平行線の哀しさにイコール記号不貞寝してをり
ウクレレ)やさしさと優柔不断はイコールで結ばれていて遠いしあわせ
(山桃)めえめえとバックの中で山羊が呼ぶ街場牧場にケータイコール
(古屋賢一)イコールをイーコルと言う先生が基礎解析の記憶のすべて