題詠100首選歌集(その61)

 最終題がやっと75首まで来た。昨夜は木枯らし1号が吹き、今日は11月下旬の気温とか。秋を通り越して、はやばやと初冬になったようだ。

               
           選歌集・その61

007:決(271〜295)
(内田かおり) カーテンを開けて決めたることのあり朝陽鋭くレースを抜ける
(久野はすみ) 青春は未決囚なり珈琲の染みの残りし臙脂のソファー
038:空耳(145〜178)
野比益多)てぅるらりらてぅるらりらって金色の音が響くよ秋の空耳
(内田かおり) 空耳と紛ふほどなる呟きに打たるる如き撓垂る柳
(さくら♪) 届かない音が彷徨う秋の空耳を澄ませて瞳を閉じる
(きり)あのねって聞こえたけれどそれは風 君の空耳振り向けば秋
048:来世(128〜152)
ウクレレ)来世まで待ちきれなくてタクシーの後部座席で指を絡める
(だったん) 君と次に会うのは来世すれ違うときの煙草の香りでわかる
(小林ちい) 来世ではあなたの子どもに生まれたいあなたの腕に抱かれて眠る
061:奴(102〜126)
(山桃)いつの世も強い女はカッコイイ江戸のむかしの奴(やっこ)の小万
(振戸りく)奴隷なら鎖がついていただろう 流行遅れのサンダルを履く
063:仏(102〜127)
(桑原憂太郎) さわやかな笑顔も急な泣き顔も仏頂面も技術の範囲
(お気楽堂)山影が空より昏く沈むころ仏舎利塔は淡く光れり
(のわ)野の仏お彼岸花に囲まれて早送りみたいな世の中見てる
(詩月めぐ) 真っ直ぐに見つめるだけの片恋に終止符を打つ 仏桑花散る
(内田かおり) 平らかな仏像の顔見上げつつ遙かな昨日を追いて秋立つ
064:ふたご(103〜127)
(こゆり) 瓶のふたごろんとおちてあふれだすさようならより確かな言葉
(わだたかし) ふたご座は優しい人が多いって優しいキミは言ってくれたね
(ゆらり) ふたご座を探すそぶりで聞いていた遠のいていく君のさよなら
065:骨(103〜127)
(詩月めぐ)あの人の長い指先思い出し鎖骨をなぞる独りの夜は
(山桃)夏は過ぎ骨牌(カルタ)結びの半幅のきりり浴衣のむかし乙女も
(村木美月)後ろから抱きしめられた温もりが肩甲骨のあたりで疼く
(こゆり) 君とハロゲンヒーターに照らされてあたしの鎖骨はつくづく女
(斉藤そよ) そこに咲く花のつよさを思ってる 鎖骨をかくすわけをきかれて
067:匿名(103〜127)
(香-キョウ-)好きですと例えば音に乗せたとて 匿名希望でお願いします
(のわ)匿名の「夫が許せないスレ」を見ればみんなが同じでなごむ
(わだたかし)気の利いたニックネームの持ち合わせなんかないから匿名希望
(黒崎聡美)アンケートハガキは白く匿名の意見を書いて出さずに捨てる
(星桔梗)匿名で届いた手紙に涙する見覚えのある懐かしき文字
(斉藤そよ) 気の利いたことのできないペンネーム匿名希望さんからの風
(内田かおり)善意ひとつ匿名として抱きたるしずしずと雨肩に浸み入る
086:水たまり(76〜100)
(穂ノ木芽央) いくつもの波紋ひろがる水たまり黄色い傘を握りしめてた
ウクレレ)恐るおそる踏み入れてみる水たまりきみの深さの底を知らない
(ふうせん)秋風を見つめたあとの水たまり 木の葉の舟をそっと浮かべた
(薫智)水たまりはしゃぎ飛び込む姪を見て失っていた自分を見てた
(秋月あまね)夏の日の歩道をふさぐ水たまり みなそれぞれに水紋をもつ
(すいこ)水たまりとぎれとぎれに映り込む人あやふやの街、空が好き
100:福(51〜75)
(原田 町)福の字を五十通りに書き分けし一幅を見るきみが名にも福
佐藤紀子) 福の神のやうと皆より慕はれて友は涙を流せずにをり
(まといなみ) 生きるってあっという間と言う母が  幸福そうでとてもうれしい
(飯田和馬)仲直りする気持ちごと棄てました。薄紅透けるいちご大福